脛骨高原骨折Split depression typeに内側側副靭帯断裂を合併した一症例

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【はじめに、目的】 脛骨高原骨折は過度な外反や内反および垂直方向への圧迫力が加わり生じる主要な荷重関節の関節内骨折である。骨折による関節面の陥没、alignment不良など骨や軟骨由来の問題だけでなく、受傷外力により膝靭帯損傷や半月板損傷を合併することが多く、これらは治療成績に大きく影響するとされている。諸家らの報告では20~25%に靱帯半月板損傷を合併するとされ、靭帯や半月板損傷を伴う症例は機能的成績が不良であるといわれている。脛骨高原骨折後の治療において関節可動域(以下ROM)の獲得に着目した報告は散見されるが、不安定性の残存に着目した報告は少ない。そこで今回、脛骨高原骨折に内側側副靭帯(以下MCL)断裂を合併し、不安定性の残存から跛行を呈した症例に対し、理学療法 (以下PT) を行なった結果、良好な成績が得られたので報告する。【方法】 症例は20代女性である。原動機付きバイク乗車中に衝突し、当院に救急搬送された。画像所見より左脛骨高原骨折(Hohl分類split depression type)、左MCL断裂と診断された。受傷後4日目に観血的骨接合術施行、翌日PTを開始した。術後3週間はギプス固定、ギプス除去後は支柱付き装具固定、術後6週間は免荷が指示されていた。PTはギプス固定中、免荷期、荷重期に分けて実施した。ギプス固定中はギプス開窓部からの膝蓋骨モビライセーション、ギプス内での等尺性筋収縮による軟部組織の癒着・伸張性低下の予防に努めた。ギプス除去時のPT所見では浮腫・熱感が残存し、MCL(特に前部線維)・腸徑靭帯・大腿筋膜張筋・外側広筋に圧痛を認めた。ROMは膝関節自動屈曲85°、伸展-25°であり、外反ストレステストにて疼痛・動揺性を認めた。免荷期は骨折部および損傷した軟部組織にストレスをかけない様、無理なROM訓練は行わず、炎症管理および創部・患部周囲の軟部組織の癒着予防を主に実施した。荷重期は免荷期のPTを継続するとともに下腿外旋制動テーピングと外反制動装具を使用した状態での筋力強化を追加し、立位・歩行における骨折部およびMCLへのストレスが軽減する様に努めた。荷重は6週より開始し、10週で全荷重(以下FWB)可能となったが、歩行時knee-in toe-out(以下KITO)を呈していた。そのため、MCLへのストレスを考慮し下腿外旋制動テーピングおよび足底挿板を併用し、松葉杖歩行を継続した。治療効果判定にはROM、Hohl治療成績判定基準と日本整形外科学会治療成績判定基準(以下JOAscore) を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本発表の主旨を説明し、承諾を得た。【結果】 ROMは膝関節自動屈曲150°(健側155°)、伸展0°Extension lag(-)、MCLの圧痛は消失、外反動揺性は改善した。その他の問題となる所見は認めなかった。Hohl治療成績判定基準では解剖学的評価および機能学的評価ともに優(excellent)であった。JOA scoreでは88点であった。 約1年後に抜釘術で来院した際も外反不安定性や跛行は認めず長期経過は良好であった。【考察】 本症例は、膝関節外反に圧迫力が加わったことにより、脛骨外側関節面の破壊に加えてMCL断裂を伴っていた。受傷機転および手術所見より、外側関節面と半月板の破壊・関節内血腫に伴う組織の瘢痕化が危惧され、膝関節のROM制限が予測された。また、外側関節面と半月板の破壊やMCL断裂の合併から膝関節外反不安定性が出現していた。そのため、免荷期における積極的なROM訓練は関節不安定性を助長する可能性があった。よって、損傷靭帯の成熟が著明となる約6~8週までは、膝関節外反・外旋によるMCLへの機械的ストレスに注意し、active中心のROM訓練を実施した。その結果、外反ストレステストでは動揺性を認めず、可動性も改善した。しかし、歩行においてはKITOを呈し、跛行が出現していた。諸家らは、修復MCLは損傷後1年経過しても正常MCLの40~60%程度にしか回復しないと報告している。さらに修復靭帯は最大破断強度の低下に加え、日常での生理的レベルのストレス負荷に対する応答にも質的低下を呈するとしている。KITOでは大腿に対し相対的な下腿外旋位を呈し、MCLへの機械的ストレスが生じる。KITOを繰り返す歩行は関節不安定性を助長すると考えられたため、FWB後も無理なFWBを避け、良好なalignmentでの荷重が可能な両松葉杖歩行を継続した。また、下腿外旋制動テーピングおよび足底挿板を併用し、MCLへの過度なストレスが加わらないよう配慮した。その結果、MCLの瘢痕がある程度成熟し、膝関節外反不安定性が最小限に留められたため跛行が改善したと考えられた。【理学療法学研究としての意義】 脛骨高原骨折後のPTでは、二次性関節症変化の要因となる不安定性の出現に留意し、軟部組織の修復過程や損傷組織への機械的ストレスを考慮したPTが有効である事が示唆された。

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549183872
  • NII Article ID
    130004692935
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ca0261.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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