TKA術後の歩行速度の変化とdouble knee actionの関連について
説明
【目的】 正常歩行における膝関節の伸展-屈曲-伸展-屈曲という運動(double knee action)は,踵接地時の衝撃の軽減及び重心の上下移動の振幅減少に役立つ.この運動は,歩行時のスムーズな重心の前方移動に貢献していることから,歩行速度の向上に必要な運動と考えられている.先行研究によると,変形性膝関節症(OA)患者はこの運動が消失し,人工膝関節全置換術(TKA)後に出現することが述べられている.一方,歩行速度はTKA直後に低下し,その後徐々に回復すると明らかにされている.これらのことから,TKA術後のdouble knee actionの出現や程度が歩行速度の改善に大きな影響を与えている可能性が高い.そこで,本研究ではTKA術後の歩行時膝関節角度を経時的に観察し,歩行速度とdouble knee actionの変化の関連性を明らかにすることを目的とした.【方法】 2010年7月から9月までOAに対し片側TKAを施行した女性6名(平均年齢75.8±3.3歳)を対象とした.当院のクリニカルパスに従い,独歩が認められる術後9日目から,退院予定日である21日目まで歩行速度と歩行時膝関節角度の2項目を測定した. 歩行速度は,対象者に快適速度で歩くように説明し,14mの歩行路の中央10mに要した時間から算出した.膝関節角度は,マーカーを大転子,大腿骨外側上顆,外果に貼付し,2歩行周期をデジタルビデオカメラで撮影し,二次元動作解析システムにて解析を行った.踵接地時期での最大伸展角度(踵接地伸展角),立脚中期での最大屈曲角度(立脚期屈曲角),立脚後期での最大伸展角度(立脚後期伸展角),遊脚期での最大屈曲角度(遊脚期屈曲角)を求め,踵接地伸展角と立脚期屈曲角の差(立脚初期角度差)と,立脚期屈曲角と立脚後期伸展角の差(立脚後期角度差)をdouble knee actionの指標とした. 統計には以下の方法を用いた.歩行速度と膝関節角度の関係について,Pearsonの相関係数を求めた.また,術後9日目とそれ以降の歩行速度,および4点の膝関節角度について,Dunnett法による多重比較を行った.すべての項目について危険率5%未満を有意差ありとした.【説明と同意】 本研究においては当センター倫理委員会の承認,並びにヘルシンキ宣言に基づき,すべての症例に対し測定前に本研究の主旨を説明し同意を得た.【結果】 歩行速度の平均は,9日目から21日目までそれぞれ0.50,0.51,0.53,0.57,0.55,0.55,0.57,0.58,0.61,0.62,0.61,0.61,0.63(m/s)であり,9日目との多重比較の結果12日目以降で有意に大きな値を示した.4点の膝関節角度の9日目の平均は12°,20°,15°,58°であった.多重比較の結果,遊脚期屈曲角のみ,17日目を除く16日目以降に有意に大きな値を示した.また,歩行速度と膝関節角度の相関では,遊脚期屈曲角のみ有意な正の相関が認められた. 立脚初期角度差は9日目から21日目までそれぞれ8.3,8.6,8.6,8.4,8.0,8.5,7.9,7.6,7.6,7.5,8.0,7.0,6.9(°),立脚後期角度差は4.3,5.0,4.1,3.5,4.5,4.2,3.7,5.4,4.2,4.7,4.8,5.6,5.1(°)であった.多重比較の結果,有意な差は認められなかった.【考察】 歩行速度は12日目以降で時間の経過とともに有意に改善を認めた.健常者の歩行速度が1.0m/sであることを考慮すると,退院時においても正常速度には達していないことが示された.また9日目の立脚初期角度差は8.3°,立脚後期角度差は4.3°であり,TKA術後の独歩開始時よりdouble knee actionが存在していたといえる.しかし,それぞれの角度差の正常値は,立脚初期角度差が約20°,立脚後期角度差が約15°とされていて,今回得られた結果はこれらの正常値と比較して小さい値を示した.我々は当初,時間経過に伴う歩行速度の改善とともに、double knee actionがはっきりと観察される,つまり立脚初期角度差と立脚後期角度差の値が大きくなると予想していたが,今回の結果から変化を認めなかった.このことから,少なくとも術後3週程度は歩行速度とdouble knee actionには関連がないと考えられる.一方で,歩行速度と遊脚期屈曲角は有意な正の相関を認めており,歩行速度の改善に遊脚期の膝関節屈曲角度の増大が寄与していることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 臨床的に重視されているdouble knee actionを定義し,歩行速度との関連について詳細に検討したこと.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2011 (0), Ca0921-Ca0921, 2012
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680549244928
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- NII論文ID
- 130004692968
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可