経験スポーツ種目による肩関節可動域の検討
説明
【はじめに、目的】 野球選手の肩は,外旋可動域に内旋可動域を加えた全回旋可動域は投球側と非投球側で差はないものの,回旋可動域が外旋側に変位する外旋シフトが生じると考えられている.また,外転可動域が減少するともいわれている.しかし,その他のスポーツ競技についての研究は少ない. 我々は先行研究を元に「野球競技経験者とその他のオーバーヘッド動作を伴うスポーツ(バレーボールやテニスなど)競技経験者の利き手側の肩は外旋シフトしているであろう.一方,オーバーヘッド動作を伴わないスポーツ(サッカーや柔道など)競技経験者の利き手側と,全ての非利き手側では外旋シフトは存在しないであろう」という仮説を立てた. 本研究の目的は,肩関節内外旋可動域および外転可動域について経験スポーツによる違いを明らかにすることであり,野球競技経験者に加え他のスポーツ競技経験者の可動域を測定し,外旋シフト状況や利き手側,非利き手側の比較を含め検討した.【方法】 対象は若年健常成人82名であった. 肩関節内旋および外旋可動域は肩甲骨の動きを阻害しないように腹臥位にて,肩関節外転90度で両側の肩峰と測定側の肘頭が直線状になるようにし,頚部中間位で測定した.肩関節外転可動域は日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会の測定方法に準じ,端座位にて測定した.全ての測定は30cmのプラスチック製ゴニオメータ―(鈴木医療器)を用い,他動可動域を測定した.全被験者に対し同一検者が 各3回測定し,最大値を採用した.さらに,測定後に経験スポーツに関するアンケート調査を実施した. 肩関節障害の既往(医療機関受診)を有するもの,同一スポーツ競技経験3年未満のものを除外した69名を競技経験スポーツごとに,1群(野球競技経験者)17名,2群(野球以外のオーバーヘッド動作を伴うスポーツ競技経験者)20名,3群(オーバーヘッド動作を伴わないスポーツ競技経験者)32名に分け比較分析した. データ分析は,3群間の比較には一元配置の分散分析,利き手と非利き手の比較には対応のないt検定を用いた.危険率は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき,本研究の目的,方法,参加による利益と不利益などの説明を十分に行い,同意を得た.対象者は全員自らの意思で参加した.また,本研究は本学研究倫理委員会の規定に基づき,卒業研究倫理審査により承認され実施した.【結果】 肩関節内外旋可動域,外転可動域いずれにおいても3群間で有意差はみられなかった. 外旋は参考可動域90度に対し1群は112.0度,2群は108.0度,3群は110.0度と3群ともに約20度の拡大がみられた.一方,内旋は参考可動域70度に対し1群は46.5度,2群,3群ともに52.0度と3群ともに約20度の減少がみられた. また,外転は参考可動域180度に対し1群は173.2度,2群は176.0度,3群は176.2度と3群ともに若干の減少を示した. 本研究では非利き手に対し利き手で外旋可動域10度以上の拡大,かつ内旋可動域10度以上減少しているものを外旋シフトと定義した.外旋シフトは1群で8/17名(47.1%),2群で3/20名(15.0%),3群では4/32名(12.5%)と1群に多くみられた. また,利き手と非利き手の比較では,外旋可動域が利き手109.9度,非利き手104.8度と利き手が有意に拡大していた.内旋可動域は利き手50.7度,非利き手57.2度,また外転可動域は利き手175.4度,非利き手178度と利き手が有意に減少していた.【考察】 本研究では経験スポーツ間による可動域に差はみられなかったが,全群の利き手側で外旋シフトが生じていた.また,有意差はなかったものの,外旋シフトの割合は1群が他の群に比較して多かったことから仮説は概ね支持されたと考える. 利き手側と非利き手側の比較では有意差があった.内外旋可動域の合計である全回旋可動域は,利き手160.6度,非利き手162.0度と差はなく,左右共に外旋シフトしていた. 全群,両側共に外旋シフトしていた原因については何が影響していたのかまでは推察出来ないが,スポーツ以外の要因も影響している可能性がある.また,元々の体の柔軟性等の影響も無視できないと考える. 外旋シフトはパフォーマンスの向上に繋がるという説がある一方,否定的な研究もあることに加え,逆にストレスが増大し投球障害につながるという指摘もあることから,スポーツ選手の障害予防を含め総合的に研究する必要性がある.【理学療法学研究としての意義】 経験スポーツによる関節可動域の影響を明らかにすることで,スポーツ障害の予防やパフォーマンスの向上など臨床の場で広く応用できる可能性がある.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2012 (0), 48100354-48100354, 2013
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680549249536
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- NII論文ID
- 130004584884
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可