腹横筋の随意的収縮と自動的収縮が筋厚へ及ぼす影響について

Description

【目的】体幹の安定性に関与すると言われている腹横筋に関する研究では,同筋を特異的に収縮させる方法である腹部引き込み運動(Abdominal Drawing-in Maneuver;ADIM)がその機能を評価する上でよく用いられている.このADIMが随意的な収縮であるのに対して,四肢の運動や姿勢変化に伴う腹横筋の自動的な収縮にも注目が置かれ,自動下肢挙上運動(Active Straight Leg Raise;以下ASLR)がこれに含まれる.これらADIMとASLRについて,慢性腰痛症患者を対象にした研究では健常者と比較して腹横筋筋厚が有意に小さいという報告や,筋電図学的に活動性が乏しいという報告はあるものの,この2つの課題を直接比較し,どの動作が最も腹横筋の筋厚を増加させるか検討した研究は見当たらない.したがって,本研究の目的は超音波画像診断装置を用いてADIM,ASLRが腹横筋筋厚へ及ぼす影響について検討することである.<BR><BR><BR>【方法】対象は本学に在籍する健常男性7名(20.4±1.5歳,170.4±6.5cm,58.7±10.1kg)で,体幹や下肢に整形学的または神経学的既往歴がない者とした.計測機器はAgilent Technologies社製Image Point HX超音波診断装置(リニアプローブ,5-10MHz)を用いた.測定部位は正中線から水平方向に約10cm,及び第11肋骨と腸骨稜の中間とした.課題はASLR,ADIMと,これらを組み合わせた課題(combined 課題;以下CT)の3つとし,ASLR,CT時の下肢挙上は計測側と同側,対側の両方で行なった.ASLRは膝関節完全伸展位のままベッドから踵を5cm挙上させ,ADIMは脊椎の動きを伴わないように腹部を引き込み,CTはADIM,ASLRの順で行なうよう指示した.また,ASLRは腹部を意識させずに行なう必要があるため,実験はASLR同側,対側,ADIM,CT同側,対側の順で行い,各課題で安静時,動作時の順で各3回ずつ画像を取得した.安静時画像は全ての課題で安静吸気時とし,動作時画像はASLR,ADIMで呼気終末時,CTで下肢挙上3秒後とした.データの解析は各課題における安静時,動作時の腹横筋筋厚,また安静時と動作時の腹横筋筋厚変化率(Active/Rest比;A/R比)を算出し,ANOVAを用いて統計解析した.また,安静時と動作時の筋厚の比較にはPaired t-testを用いた.有意水準は5%未満とした.<BR><BR>【説明と同意】本研究の被験者には事前に書面と口頭により研究の目的,実験内容,考えられる危険性等を説明し,理解と同意を得られた者のみ同意書に署名し,実験に参加した.本研究は本学保健科学研究院の倫理委員会の承認を得て行った.<BR><BR>【結果】全ての課題において,安静時と比較して動作時に有意な腹横筋筋厚の増加を認めた(p<0.01).また,安静時筋厚に関しては課題間で有意差は認められなかったが,動作時筋厚においてはASLR,CT両課題の同側-対側比較を除く全てで課題の影響が認められた(p<0.01).つまり,ASLR,ADIM,CTの順で筋厚は有意に増加した.A/R比も筋厚と同様に,同順での有意な腹横筋筋厚変化率の増加が認められた(p<0.01).<BR><BR>【考察】本研究結果から,ASLR,CTの両課題において,挙上する下肢に関して計測側と同側,対側に有意な差は認められなかった.腹横筋の活動に関しては左右対称に働くというものが一般的であり,また腹横筋はいわゆる体幹ローカル筋群に属する筋であるため体幹の運動には関与せず,脊椎を分節的にコントロールするとされている.以上より,同側,対側で有意差が認められなかったのはASLRのような非対称性運動においても腹横筋は動作そのものには関与せず,本来の役割である対称性に活動することで脊椎を安定化させるように活動したということを示唆している.また,全ての課題において安静時と動作時の腹横筋筋厚に有意差が認められ,動作時筋厚,A/R比がASLR,ADIM,CTの順で有意に増加していた.これを説明するものとして,ASLRはこれまで,片側下肢挙上による負荷を骨盤を通じて体幹に移動させる方法として主に腹横筋のmotor controlの指標として使用され,ADIMは腹横筋の努力性の活動の指標とされてきた.つまり,腹横筋を意識させないASLRによる負荷よりも,意識させたADIMによる努力性の活動の方が腹横筋筋厚をより有意に増加させやすく,さらに,努力性の活動に負荷が加わることでより有意に筋厚が増加したものと思われる.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】本研究は,腹横筋の随意的収縮と自動的収縮が筋厚へ及ぼす影響を直接比較した最初の研究である.加えて,本研究は腹横筋に関する基礎的な研究であるが,臨床的応用への展開をも視野に入れたものである.その観点から,本研究結果は臨床において腹横筋のエクササイズを行う際のプログラム構成や、腹横筋の機能評価を検討する際の一助となるかもしれない.

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549280640
  • NII Article ID
    130004582342
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.c3o3056.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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