腸腰筋伸張性低下と股関節内旋可動域の関係

説明

【はじめに、目的】 股関節屈曲伸展、内外転、内外旋中間位(以下、股関節中間位)での内旋可動域(以下、内旋可動域)は野球時のバッティング時の軸足での運動形成など、スポーツ場面においても重要な要素である。股関節内旋角度の報告については大腿骨前捻角が大きくなるほど内旋可動域も大きくなるとの報告や、健常成人においては屈曲位でも伸展位でも変わらないとの報告もある。股関節内旋を制限する因子として股関節外旋筋群の伸張性の関与が挙げられるが、外旋筋群の抵抗により股関節屈曲可動域が制限されるともいわれている。よって、内旋可動域が低下している場合、筋の走行上からも股関節屈曲筋であるのと同時に股関節外旋を補助している腸腰筋の伸張性低下などの関与も考えられる。本研究は腸腰筋の伸張性低下が股関節中間位での内旋可動域制限に関与しているかを検証するために研究を行った。【方法】 対象は股関節障害の既往歴がない男性13例、女性9例、計22名。平均年齢23.9歳±3.0歳。腸腰筋伸張性低下の表す指標として、非屈曲側大腿骨外側上顆にマーカーを付着して、トーマステストを自動運動で行いマーカーの移動量を測定した。股関節内旋角度はマーカーとして腹臥位で検査側膝蓋骨下縁と内外果を結んだ線上2分の1の部分の計2ヶ所に付着し、2ヶ所を結ぶ線を移動軸とし、腹臥位にて股関節中間位・膝屈曲90°にて股関節最大自動内旋運動の角度を足底側からビデオカメラ撮影し、動画解析ソフトDartfish Soft ware ver4.5(株式会社ダートフィッシュジャパン)を用いて解析した。信頼性を高めるために、1回の運動をダートフィッシュ上での画面上で計3回解析を行い、3回の平均値を代表値とした。また、マーカーの貼付、解析、動作指導は同一検者が行なった。解析方法は22名の被検者左右44股関節について、それぞれの腸腰筋伸張性低下を反映するマーカー移動距離と股関節の内旋自動運動を可動域制限まで行い、股関節屈曲移動距離と内旋角度の相関関係を被検者全体(以下A群)と男女間(以下B群)それぞれについてspearman順位相関係数検定を用いて検討した。更に、左右股関節屈曲マーカー移動量の数値が大きい側を腸腰筋伸張性低下側とし、伸張性低下側に対して同側の股関節内旋角度に制限がある場合は同側タイプ群とし、反対側の内旋角度に制限がある場合は対側タイプ群とした。統計解析方法は1サンプルx2検定を用いて、腸腰筋伸張性低下側と股関節内旋可動域低下側が同側タイプであるかを検定した。(以下、タイプ検定群)【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき被検者に研究内容や目的について十分説明を行い、同意を得てから行った。【結果】 危険率1%、自由度1で検討した結果、A群 右股関節 r値-0.40 左股関節r値-0.36 共に無相関検定の限界値±0.56以下であり相関関係は認められない結果であった。また、B群でも各股関節共に相関関係が認められない結果となった。タイプ検定群の結果は、危険率1%、自由度1で検討した結果、係数0.18となり、同側タイプ群と対側タイプ群の間に有意差は認められなかった。同側タイプが22例中、12例、対側タイプが10例であった。【考察】 今回、股関節中間位において腸腰筋伸張性低下と股関節内旋角度の関係に有意差があるとはいえない結果となった。先行文献では腸腰筋の活動は股関節外転位で関与しているとされ、股関節中間位での内旋可動域制限となりうる要素とは考えにくいことが示唆された。測定方法のトーマステストについては、今回自動運動ではあったが、他動的な一側股関節の屈曲には寛骨や仙骨の動きも含んでいるとされていることから、制限因子が腸腰筋伸張性低下の要素のみではなかったことも考えられる。また、タイプ別検定群では同側・対側タイプほぼ半数に分かれて個別性の高い結果となったことから、股関節中間位での内旋運動にはより繊細な評価が必要であることも示唆された【理学療法学研究としての意義】 今回の研究により股関節中間位での内旋運動を阻害する因子として腸腰筋の伸張性低下は関与しないことが示唆され、更にタイプ別判定では個別性が高いことも考えられた。股関節伸展位では内旋可動域制限となるとされている外旋筋群も個別差により中間位で阻害因子となっていたことも考えられた他に、大殿筋など、股関節外旋補助筋群の伸張性低下の関与も考慮しなくてはならなかったことも考えられる。また、大腿骨に付着する個別の筋組織のみではなく、腰背筋膜や前捻角・頚体角などの様々な因子や肢位などを考え、個々に確認していく評価が肝要であると考えられた。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Cb0489-Cb0489, 2012

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549282944
  • NII論文ID
    130004693009
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.cb0489.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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