腰椎椎間板ヘルニア術後の早期からの積極的なリハビリテーションは有効か?

説明

【目的】<BR>本邦の腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン(2005年)では,腰椎椎間板ヘルニア術後のリハビリテーションは,術直後から積極的に実施する必要性は無く,術後1ヶ月経過した頃から開始するのが有効であるとしている.また,本邦にて腰椎椎間板ヘルニア術後のリハビリテーション効果に関して無作為化比較試験での報告は,我々が知り得る限りでは見当たらない.本研究の目的は,腰椎椎間板ヘルニア術後の早期からの積極的なリハビリテーションの有効性を無作為化比較試験にて検証することである.<BR>【方法】<BR>対象の適応基準は,2008年6月~2009年4月までに腰椎椎間板ヘルニアの診断にて腰椎椎間板ヘルニア摘出術目的で入院した者,当院のクリニカルパスに該当する者,退院後に定期的な再来受診が可能な者,60歳未満の者,などとした.除外基準は,腰部脊柱管狭窄症・腰椎すべり症・腰椎分離症などの合併,第1腰椎から第5腰椎の前弯角が0°以下の腰椎後弯が認められる者,手術歴のある者,多部位の骨・関節障害により疼痛が認められる者,同意が得られない者,MMT3未満の著明な下肢の筋力低下を認める者,などとした.適応基準を満たし除外基準に該当しない者を抽出し,無作為に介入群とcontrol群に分類した.腰椎椎間板ヘルニア摘出術後の後療法は,介入群,control群の両群ともに術後10~14日での退院を目標とするクリニカルパスを基本とした.両群共に,深部静脈血栓症予防としての足関節底背屈運動,ADL指導に関するパンフレットの配布および実技練習,看護師による日常生活に関する退院時指導,術後に遺残症状が認められる場合には物理療法(電気治療・超音波治療)を行った.介入群は,術後5日目より体幹・股関節のストレッチ,下肢・体幹の筋力強化,walking,自宅・職場環境を想定したADL・社会生活指導,疼痛の管理などを個々の症状に合わせて積極的に行い,退院時にはホームプログラムを指導し,退院後の主治医による検診時(退院後2週時)まで継続するように指導した.検討項目は,術前,術後リハビリテーション開始時,退院時(術後約10~14日),退院後2週時の腰痛・下肢痛・下肢のしびれのVisual Analogue Scale,症状範囲を数値化したTotal Body Area Score(Ohlund;1996), Schober’s testによる腰椎の前後屈ROM,Oswestry Disability Index,SF-36v2とし,2群間での比較検討を行った.統計学的検討は,対応のないt-検定,χ2独立性の検定を使用し,有意水準は5%未満とした. <BR>【説明と同意】<BR>全ての対象者に対して,事前に本研究の目的,研究への参加の任意性と同意撤回の自由,ならびにプライバシーの保護についての十分な説明を行い,本研究参加への同意と同意書への署名を得た上で調査を行った.尚,本研究は当院の倫理委員会にて事前に承認を受け実施した.<BR>【結果】<BR>介入群28例(男性12例,女性16例),control群25例(男性17例,女性8例),平均年齢は,介入群35.7±14.8歳,control群38.8±12.9歳であった.Follow-up中に脱落した者は,介入群1例,control群6例であり,その内control群2例は「腰椎椎間板ヘルニアの再発」であった.退院後2週時のSF-36v2下位尺度のVT(活力)介入群・SF(社会生活機能)・MH(心の健康)のみ介入群で有意に高値を示した(p<0.05).その他は,全ての時期の全項目に関して有意差を認めなかった.<BR>【考察】<BR>本研究の結果より,腰椎椎間板ヘルニア術後の早期からの積極的なリハビリテーションは,SF-36の精神的側面の早期改善に有効であることが示唆された.Yilmaz(2003),Filiz(2005),Celal(2007)は,術後早期からの積極的なリハビリテーションに対して,短期的(介入開始6週後・12週後)には疼痛・機能・ADLの改善に有効であると述べている.本研究では,介入開始約3週後と短期間であったため,機能面・ADLの有意な改善には至らなかっと考えられる.また,介入群では腰椎椎間板ヘルニアの再発例は認められなかったが,control群では2例存在し,不良な結果であった.今回のfollow-upは,術後約4週までの短期間のデータであり,今後の更なる追跡調査が重要であると考える.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>本研究は,我々が知り得る限りでは,腰椎椎間板ヘルニア術後のリハビリテーション効果を検証した国内で初めての無作為化比較試験による報告である.国内におけるエビデンスの一助になり得ると考えている.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), C3O3041-C3O3041, 2010

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549297152
  • NII論文ID
    130004582327
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.c3o3041.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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