腓骨神経麻痺患者に対する歩行時下肢装具の筋電図学的検討

  • 鈴木 昭広
    埼玉県立循環器・呼吸器病センター 理学療法部
  • 栁澤 千香子
    埼玉県立循環器・呼吸器病センター 理学療法部
  • 押見 雅義
    埼玉県立循環器・呼吸器病センター 理学療法部
  • 齋藤 康人
    埼玉県立循環器・呼吸器病センター 理学療法部
  • 高橋 光美
    埼玉県立循環器・呼吸器病センター 理学療法部
  • 鹿倉 稚紗子
    埼玉県立循環器・呼吸器病センター 理学療法部
  • 洲川 明久
    埼玉県立循環器・呼吸器病センター リハビリテーション科

説明

【はじめに、目的】 腓骨神経麻痺患者において、装具の装着に難色を示す症例を経験した。腓骨神経麻痺患者では、装具による足部クリアランス改善など客観的に歩行改善が認められても、歩行時に非麻痺側や体幹等での代償運動を行い易く、装具装着に同意を得られない症例も存在する。脳卒中患者の下肢装具については、歩行改善やADL改善に与える影響などが報告されている。また筋電図学的な報告では、装具が下肢の抗重力筋の筋活動を変化させるとの報告もある。しかし、腓骨神経麻痺患者に対しては装具が身体に与える影響についての報告はみあたらず、検討は十分に行われていない。今回、腓骨神経麻痺を呈した症例を経験し、歩行時の筋活動の特徴や、装具について筋電図学的に検討する機会を得たので報告する。【方法】 症例は73歳女性。急性左膝下動脈閉塞による腓骨神経麻痺にて入院。Max CPKは362IU/lで、誘発筋電図による診断では、左下腿の神経伝導速度の遅延(腓骨神経41m/sec、脛骨神経37.5m/sec)と軽度の脱髄が認められた。現症は、徒手筋力検査で左膝伸展4、足背屈1、底屈2+。関節可動域制限はなかった。感覚は表在覚中等度鈍麻、深部覚軽度鈍麻であった。姿勢は軽度円背位で、歩行は裸足歩行にて下垂足を認めT字杖使用にて2動作交互型歩行、見守りレベルであった。方法は、裸足歩行と装具歩行(オルトップAFO)を快適速度にて15mずつ行った。各歩行時に麻痺側の内側広筋(VM)、前脛骨筋(TA)、外側腓腹筋(GL)の3筋の筋活動量の計測を表面筋電図にて行った。また、電子角度計を麻痺側の膝と足関節に装着し、遊脚期と立脚期を区分するために、踵とつま先にフットスイッチを装着して同時に計測した。これらの計測には、日本光電社製マルチテレメータシステムWEB-9500を用いた。各歩行は側方からビデオカメラで撮影し記録した。各歩行の分析では、安定した10歩行周期を抽出し、歩行のサイクルを立脚期の初期両脚支持期(初期DSP)、単脚支持期(SSP)、後期両脚支持期(後期DSP)と、遊脚期(SP)の4つの相に分けた。そして、各相の膝屈曲位と足関節背屈位角度の最大、最小値の比較、また、各相の筋電図データから筋電図実効値(RMS)を算出し、さらに各相のRMSの最大振幅と、波形面積を計測し比較を行った。各歩行の差の検定にはt検定を用い危険率は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院倫理委員会によって承認を得た上で実施した。対象者には本研究の主旨を十分に説明し自書による同意を得た。【結果】 裸足歩行はつま先からの初期接地で10m30歩22秒。装具歩行はつま先・踵が同時に初期接地し10m29歩21秒で歩行していた。膝屈曲位と足関節背屈位角度の比較では、初期DSPとSSPの膝、足関節の最大、最小値と、後期DSPの膝関節最小値、足関節最大値、SPの膝関節最小値と、足関節最小値で有意差を認めた。有意差のあった角度は、後期DSPの足関節最大値以外は、装具歩行のほうが大きな値であった。筋電図データからの比較では、RMS最大振幅で、SSPのVMが裸足歩行:装具歩行で0.0869±0.010mV:0.0973±0.004mV(以下もこの順)、後期DSPのGLが0.1 008±0.010 mV:0.0705±0.040 mVと有意差が認められた(P=0.019、0.032)。RMS波形面積では、初期DSPのVMが0.0199±0.001mV・sec:0.0229±0.002mV・sec、後期DSPのTAが、0.0121±0.001mV・sec:0.0158±0.002mV・sec、後期DSPのGLが、0.0202±0.002mV・sec:0.0138±0.001mV・sec、SPのVMが0.0030±0.00mV・sec:0.0039±0.001mV・secと有意差が認められた(P=0.002、0.000、0.033、0.003)。【考察】 今回の結果からは、装具の有無により、歩行時のいくつかの相で関節角度や筋電図データに有意な差を認めることができた。装具歩行では、初期接地がつま先・踵が同時接地であり、安定した支持性が得られたため、立脚期の荷重応答が行い易く、立脚期のVMやTAなどの抗重力筋の筋活動が高い値を示したと考えられる。しかし、後期DSPのGLの筋活動では、裸足歩行の方が、高い値を示していた。これは、正常歩行の筋活動に近いパターンであるが、本症例の場合は、軽度円背位の歩行で、入院前より後期DSPの蹴りだしが低下していた可能性があり、今回の結果は、足部のクリアランス不良を補うために行った、代償としての筋活動であったのではと考える。歩行は個人により異なり、高齢になるにしたがってその差は顕著になる傾向がある。今回の症例も、入院前より軽度円背などがあり、正常歩行との比較は困難であった。しかし、今回の結果から腓骨神経麻痺患者の装具療法では、足部クリアランスの改善以外にも、抗重力筋の筋活動を促す可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 腓骨神経麻痺患者への装具療法により、麻痺側下肢の筋活動を促す可能性が示唆され、装具適否を判断する為には意義のある検討と考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100436-48100436, 2013

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549312768
  • NII論文ID
    130004584945
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48100436.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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