嚥下困難感に影響を与える要因の検討

DOI
  • 乾 亮介
    医療法人宝生会 PL病院 リハビリテーション科
  • 森 清子
    医療法人宝生会 PL病院 リハビリテーション科
  • 中島 敏貴
    医療法人宝生会 PL病院 リハビリテーション科
  • 李 華良
    関西医療学園専門学校 理学療法学科
  • 西守 隆
    関西医療学園専門学校 理学療法学科
  • 田平 一行
    畿央大学大学院 健康科学研究科

書誌事項

タイトル別名
  • 表面筋電図による検討

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抄録

【目的】摂食・嚥下機能障害患者に対してのリハビリテーションにおいて理学療法は一般的に嚥下に関わる舌骨上筋群の強化や姿勢管理などを担当する。嚥下は頸部角度や姿勢からの影響を受けることが指摘されており、解剖学的視点においては諸家により報告があるが、頚部角度を変化させての筋活動における報告は少ない。 著者は昨年度の本学会において頚部伸展40°では舌骨上筋群や舌骨下筋群の嚥下持続時間は有意に延長し、筋積分値も増大するとともに嚥下困難感も増大すると報告した。しかし、個体間でみると頚部伸展40°でも嚥下困難感を呈さない対象者も存在し、その原因については明らかではなかった。そこで今回は嚥下困難感に影響を与える要因について検討したので報告する。【方法】対象者は健常男性19名(年齢32.5±6.4歳)。端座位姿勢で頸部正中位、屈曲(20°,40°)、伸展(20°,40°)の5条件で5ccの水を嚥下させた。表面筋電図は嚥下筋の舌骨上筋として頸部左側の顎二腹筋前腹、舌骨下筋として左側の胸骨舌骨筋で記録した。取り込んだ信号は全波整流したのちLow-passフィルター(5Hz)処理を行い、その基線の平均振幅+2SD以上になった波形の最初の点を筋活動開始点、最後の点を筋活動終了点とし、嚥下時の筋活動持続時間(以下持続時間)及びその間の筋積分値を計測した。嚥下困難感については表(0=嚥下しにくい  10=嚥下しやすい)を用い、各角度で水嚥下した後に評価した。得られた結果からすべての筋における持続時間、筋積分値と嚥下困難感についてピアソンの積率相関分析を実施した。また、各角度で得られた嚥下困難感の結果から頚部伸展位で嚥下困難感が強かった群を(伸展増悪群:9名)とし、伸展位でも比較的嚥下困難感群が強くなかった群(伸展非増悪群:10名)の2群に分類した。そしてこの2群間においてそれぞれ、屈曲(20°,40°)、伸展(20°,40°)の角度における筋積分値について対応のないt検定を実施した。有意水準はいずれも5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は所属施設の研究倫理委員会の承認を得た(承認番号H22-25)。また、対象となる被験者すべてに書面にて研究の説明を行い、同意書の署名を頂いた後に実施した。【結果】相関分析の結果では全ての筋において嚥下持続時間と嚥下困難感ともに有意差を認めなかった。しかし、筋積分値においては舌骨下筋群の筋積分値と嚥下困難感において有意な負の相関を認めた(r=-0.52 ,p<0.05) また、2群間の筋積分値の比較については全ての筋において屈曲方向では伸展増悪群が低値を示し、伸展方向では伸展非増悪群が低値を示す傾向を認めた。特に伸展増悪群において、舌骨上筋群は屈曲20°位で低値を示し(p<0.05)、舌骨下筋群は伸展40°で高値を示した(p<0.01)。一方、胸鎖乳突筋はいずれの角度も有意差を認めなかった。【考察】舌骨下筋群は舌骨上筋群の拮抗筋であり、舌骨下筋群の筋積分値が増大することは嚥下時に必要な喉頭挙上筋である舌骨上筋群の活動を阻害すると考えられ、嚥下困難感と舌骨下筋群の筋積分値との間に負の相関があったことは、舌骨下筋群の筋活動量増大が嚥下困難感の増大に影響している可能性が示唆された。特に、2群間の比較において伸展非増悪群は頚部伸展40°において伸展増悪群よりも舌骨下筋群の筋積分値が有意に低く、嚥下が不利な頚部伸展位であっても舌骨下筋群の活動が低いと嚥下困難感が軽減する可能性が示唆された。一方、頚部屈曲位20°の筋積分値では伸展非増悪群は伸展増悪群よりも高値を示し、頚部屈曲位ではより嚥下がしにくくなる傾向が認められた。この理由については今回評価できていないが、被験者各個人の頸椎や胸椎のアライメントが頚部周囲筋の嚥下筋の活動パターンに影響を与えているのではないかと考えられた。【理学療法学研究としての意義】舌骨下筋群の筋活動増大は嚥下運動を阻害する可能性があり、これらの筋活動を高めないようなポジショニングを考慮し、摂食・嚥下機能障害患者に対しての理学療法介入を検討していく必要があると考える。一方で頚部屈曲がより嚥下しやすいが頚部伸展位では嚥下しにくい者と、頚部伸展位はあまり嚥下しにくくないが、頚部屈曲位ではかえって嚥下がしにくくなる者がおり、各個人によって固有のパターンがあることが示唆され、嚥下困難を呈する嚥下障害患者に対して、安易な頚部屈曲位のポジショニングのみを強制するのではなく、対象者の頸椎アライメントを含めた姿勢や嚥下しやすい頚部角度を評価した上で、介入を検討する必要があると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100430-48100430, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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