肩甲骨、鎖骨の動態に関する三次元動作解析

  • 高島 慎吾
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻
  • 建内 宏重
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻
  • 永井 宏達
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻
  • 遠藤 正樹
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻
  • 宮坂 淳介
    京都大学医学部付属病院リハビリテーション部
  • 市橋 則明
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻

書誌事項

タイトル別名
  • 自動挙上および他動挙上の比較

説明

【目的】<BR> 上肢を挙上するにあたり,肩甲上腕関節の動きに加えて肩甲骨・鎖骨の動きは必要不可欠である.これまでの肩甲骨の動態に関する数多くの研究によって,肩甲骨と上腕骨の間で,ある一定のリズムが存在し,運動を効率よく行うための制御の結果として肩甲骨の運動が生じているということが共通の理解として得られている.しかし,その肩甲骨の動きが筋活動により生じているのか,また,上腕を動かしたことにより受動的に生じているのかについては明らかではない.また,肩甲骨は胸鎖関節の動きにより可動範囲が得られ,肩鎖関節を軸にして可動しているという解剖学的特徴が知られているが,鎖骨動態のメカニズムもまた明確には調査されていない.そこで本研究の目的は,自動挙上および他動挙上時の肩甲骨・鎖骨の動態を三次元的に比較し,筋活動による動的な制御によってこれらの動きが生じているのか,軟部組織の受動的な働きによって生じているのかについて明らかにすることとした.<BR>【方法】<BR> 対象者は上肢に疾患を有さない健常成人男性8名(23.3±2.5歳)とした.課題は背もたれのない座位にて,肩甲骨面(前額面より30°前方) 上で鉛直線に対して上肢の角度が0°,30°,60°,90°,120°,150°,180°となる肢位で自動および他動挙上を3秒間保持するものとした.なお,他動挙上は2名の検者により上肢を所定の角度で他動的に保持することで行った.計測には三次元動作解析装置VICON NEXUS(VICON社製)を用いた.International Society of Biomechanicsの推奨に基づきC7棘突起,Th12棘突起,頸切痕,剣状突起で胸郭セグメント(ΣT),胸鎖関節,肩鎖関節で鎖骨セグメント(ΣC),肩峰,肩甲棘三角,肩甲骨下角で肩甲骨セグメント(ΣS)を定義し,解析ソフトBody BuilderにてΣTに対するΣS,ΣCのオイラー角をそれぞれ肩甲骨の角度,鎖骨の角度とし,肩甲骨上方回旋角度,前後傾角度,内外旋角度および鎖骨挙上角度,前後方並進角度を算出した.同時に,各測定肢位角度間における肩甲骨上方回旋,鎖骨挙上角度の変化量も算出し,その動態についても分析した.なお、挙上に伴い肩甲骨が皮下で動き体表マーカーと骨との位置が変化するという測定上の問題踏まえ,肩甲棘三角・下角のマーカーは挙上角度毎に2名の検者による位置確認のもと貼り直した.また,他動挙上時に筋活動が生じていないことを確認するために三角筋,僧帽筋下部線維の筋電図を導出し,リアルタイムで筋活動が生じていないことを確認した.統計分析は角度毎の自動挙上と他動挙上の比較にWillcoxonの順位和符号検定を行った.統計学的有意水準は5%未満とした.<BR>【説明と同意】<BR> 対象者には研究の主旨を十分に説明し,書面にて同意を得た.<BR>【結果】<BR> 自動挙上時の肩甲骨上方回旋角度は30°より順に5.3°,17.0°,31.7°,46.0°,54.9°,63.4°であり,他動挙上時の肩甲骨上方回旋角度は8.7°,16.1°,30.6°,44.3°,54.7°,61.2°であった.自動挙上時の鎖骨挙上角度は9.7°,13.9°,20.2°,21.9°,21.9°,22.9°であり,他動挙上時の鎖骨挙上角度は9.9°°,12.5°,16.3°,19.1°,20.9°20.8°であった.統計学的分析の結果,肩甲骨上方回旋は30°挙上時に自動<他動,鎖骨挙上は90°,120°挙上時に自動>他動で有意な違いが得られた.肩甲骨前後傾角度は全ての挙上角度において自動および他動挙上間に有意差は得られなかった.肩甲骨外旋,鎖骨後方並進角度は180°挙上位で自動>他動で有意差が得られた.また,肩甲骨上方回旋および,鎖骨挙上角度の変化量の比較より,肩甲骨上方回旋は0-30°挙上間で自動<他動,30-60°,150-180°で自動>他動,鎖骨挙上は30-60°で自動>他動と有意差が得られた.<BR>【考察】<BR> 本研究より,筋活動によってsetting phaseが生じるとされる0-30°で肩甲骨上方回旋を制動し,30-60°間では逆に大きな肩甲骨上方回旋を生じさせている.その後60-150°挙上までは自動挙上、他動挙上ともに同じ肩甲上腕リズムで上肢挙上を行うが,最大挙上には,筋活動によってより大きな上方回旋角度を得ている. また,鎖骨挙上は一般的に上肢90°挙上までに生じるということが知られており,自動挙上時の鎖骨挙上角度はそれに順じる動態を見せたが,他動挙上時の鎖骨挙上角度は上肢150°挙上まで漸増的に挙上するという異なった動態を見せた.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 肩関節に傷害を有する症例では,肩甲骨の動作不良による肩甲上腕リズムの破綻を併発していることが多い.その肩甲上腕リズムが筋活動により制御されているのか,また,軟部組織によって受動的に生じているのか明らかにすることで,肩甲上腕リズムの乱れに対する正しい治療戦略を確立することができる.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), C3O2145-C3O2145, 2010

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549329920
  • NII論文ID
    130004582293
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.c3o2145.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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