頭部前方位姿勢と頸部深層屈筋群の機能との関係

DOI
  • 中丸 宏二
    寺嶋整形外科医院リハビリテーション科 首都大学東京大学院人間健康科学研究科(研究生)
  • 相澤 純也
    了徳寺大学健康科学部理学療法学科
  • 小山 貴之
    駿河台日本大学病院理学療法室
  • 新田 收
    首都大学東京大学院人間健康科学研究科

抄録

【目的】座位でコンピューターを使用する機会が多い現代では、頭部前方位姿勢に代表される不良姿勢を認めることが多い。特に頸部に疼痛を訴える人は頭部前方位姿勢を呈することが多く、頭頸部の不良姿勢は頸部から上背部に疼痛を生じさせ、慢性的な症状に進展する可能性がある。先行研究では、頸部痛患者において頭頸部屈曲に作用する頸長筋、頭長筋などの頸部深層屈筋群の機能が低下し、胸鎖乳突筋の活動が大きくなる代償動作が認められたとしている。また、このような患者に対して、頸部深層屈筋群の機能向上を目的としたエクササイズを組み込んだリハビリテーションプログラムが効果的であったとの報告もある。しかし、頸部に症状のない健常者における頭部前方位姿勢と頭頸部屈曲時の胸鎖乳突筋による代償動作との関係についての報告はない。今回、安静座位姿勢での頭頸部の肢位と頭頸部屈曲運動中における胸鎖乳突筋の筋活動を測定して頭部前方位姿勢と相対的な頸部深層屈筋群の機能との関係を調べ、不良姿勢が健常者においても頸部障害患者と同様の筋機能低下を生じさせるか否かを明らかにすることを目的とした。<BR><BR>【方法】対象は頸部に既往歴のない健常男性7名とした。平均年齢は22.2±1.7歳(平均±標準偏差)、平均身長171.9±3.0cm、平均体重64.8±5.5kgであった。測定方法は、安静座位での頭部自然位における頭蓋脊柱角(craniovertebral angle;:CV角)と背臥位で頭頸部屈曲テスト(cranio-cervical flexion test:CCFT)を行った際の胸鎖乳突筋の活動を測定した。<BR>1. 頭蓋脊柱角<BR>被験者は椅子座位。頭部自然位は、頭部の屈伸を繰り返しながら徐々に可動域を小さくし、最終的に最も楽な姿勢をとらせた。解剖学的マーカーを第7頚椎棘突起、耳珠に貼付し、矢状面よりデジタルカメラにて頭頸部を撮影した。デジタルカメラと被検者の頭頸部の距離が80cmになるようにカメラを三脚上で固定、ワイドズームで撮影し、画像分析ソフトにより頭蓋脊柱角を測定した。<BR>2. 頭頸部屈曲テストにおける胸鎖乳突筋の筋活動の測定<BR>1)測定肢位:被験者はベッド上に背臥位で、前頭部と顎を結ぶ線、耳珠を通り頸部を二分する想像上の線がそれぞれベッドと水平になる位置を頭頸部屈曲の開始肢位とした。圧力の変化を測定するスタビライザー (Stabilizer, Chattanooga, USA)のエアバック部を後頭下部に置いた。<BR>2)筋電計<BR>筋電計の電極は胸鎖乳突筋の筋腹下1/3に貼付し、20-500Hzのバンド幅フィルター、1000Hzでサンプリングした。<BR>3)実験手順<BR>最初に頭部屈曲、頸部屈曲してベッドから後頭部をわずかに離し、この状態を10秒間保持する。2試行し、1秒最大積分値の高い方を基準値とした。CCFTの測定はスタビライザーのエアバック部に空気を入れて圧力計が基準値の20mmHgを指すように合わせ後、被検者は頭部を押し付けるのではなく、頸椎前彎を減少させるように頷いて頭頸部屈曲を行うことで圧力計が22, 24, 26, 28, 30mm Hgを指すように5段階行った。それぞれの段階での動作を10秒間保持し、その間の胸鎖乳突筋の活動を筋電計にて記録した。<BR>3. 分析方法:計測した筋電図は1秒最大値における積分値を算出した。各被験者で正規化し、それぞれのCCFテスト段階における1秒最大積分値を基準値である頭部挙上時の1秒最大積分値によって除した。正規化された左右の胸鎖乳突筋の積分値は分析のために平均化した。統計解析はCV角と5段階の各圧力負荷時に得られた基準値に対するパーセンテージとの関係について単回帰分析を行った。統計ソフトはSPSS ver.16を用いた。<BR><BR>【説明と同意】本研究は、首都大学東京の倫理審査委員会の承認を得た後、被験者に文書および口頭で実験内容を十分に説明し同意を得た。<BR><BR>【結果】CV角と30mmHgの筋電積分値との間に強い関連性が示された(相関係数0.75,p<0.05)。28mmHg以下では明らかな関連性は確認できなかった。また、CV角と22mmHgから30mmHgにおける筋電積分値の変動の大きさにおいて強い関連性が示された(相関係数0.93, p<0.001)。<BR><BR>【考察】CV角が小さい頭部前方位姿勢を呈すると頭頸部屈曲運動における胸鎖乳突筋の筋活動が大きくなることから、相対的に頭頸部の屈曲に作用する頭長筋、頸長筋などの頸部深層屈筋群の機能が低下していることが示唆された。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】頸部に症状が認められなくても不良姿勢が頸部深層屈筋群の機能低下させる可能性があることから、姿勢を改善させるだけでなく頸部深層屈筋群の機能向上を目的とした理学療法介入によって頸部障害を予防できるか検討する臨床試験の基礎となり得ると思われる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), C3O2137-C3O2137, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549335424
  • NII論文ID
    130004582285
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.c3o2137.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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