能動的下肢挙上検査における腰部骨盤帯安定性評価に対する調査

  • 白尾 泰宏
    じんごあん整形外科内科クリニック リハビリテーション科
  • 小牧 順道
    馬場病院 リハビリテーションセンター

Description

【目的】膝伸展位下肢挙上検査(straight leg raise test SLRテスト)は能動的検査、他動的検査として検査目的に応じて使い分けられている。能動的SLR検査は疼痛評価や筋力評価として使用されており、疼痛評価としては骨盤帯の疼痛誘発の有無、椎間板の不安定性由来の腰痛再現などの目的で使用されている。しかし、臨床では腰痛患者における能動的下肢伸展挙上での骨盤帯動揺が観察され、諸外国では能動的SLR検査を腰部骨盤帯の安定性評価とする報告も近年増えている。<BR>そこで今回、能動的下肢伸展挙上テスト(active straight leg raise test 以下ASLRテスト)における腰痛自覚者への骨盤帯動揺と筋活動について調査したので報告する。<BR><BR>【方法】研究内容を知らされていない第3者に当院スタッフの選出を依頼し、検査前に問診にて腰痛の自覚の有無を確認した。内訳は腰痛を自覚していない女性7名(年齢31.1±7.3歳 以下腰痛なし群)、腰痛を自覚している女性12名(年齢36.5±6.5歳 以下腰痛自覚群)であった。この19名に対し、背臥位で骨盤帯部に圧分布測定装置(zebris社製 Win PDM-S)を置き、ASLRテスト時に20cmと40cmの高さを認識できるように装置を作成し足元に設置した。各挙上高にて2秒間保持し両下肢交互にASLR を2回実施し、ASLR開始指示から下肢接地までの骨盤帯のCOP(center of pressure)を測定し、COPデータを専用ソフト(パターンマッチングソフト PMS)にて解析した。得られた解析データの中から実効値(Root Mean Square RMS)と、X動揺SD、Y動揺SDを抽出し、腰痛自覚有無別のASLR20cmと40cm値の実効値、X動揺SD、Y動揺SDを比較した。また、その時の体幹筋の筋活動を表面筋電計(メディエリアサポート企業組合社製Medi-105MT)にて計測した。対象筋は腹直筋、腹斜筋群としサンプリング周波数1000Hzで双極誘導法にて測定した。得られたデータを整流平滑化処理し平均積分値を求め、最大筋力で除し%MVCを求め正規化した。統計処理は、COPパラメータに対してはMann-Whitney’s U test を、下肢挙上高別筋活動に対しては重複測定-分散分析を行いScheffeの多重比較検定を行いすべての有意水準は5%とした。<BR><BR>【説明と同意】対象者には、事前に研究の主旨を説明し同意を得た。<BR><BR>【結果】<BR>1.COPパラメータに関して<BR>実効値はASLR挙上高20cm(P<0.05)、ASLR挙上高40cm(P<0.01)、Y動揺SDは ASLR挙上高20cm(P<0.05)、ASLR挙上高40cm(P<0.01)で腰痛自覚群のCOPパラメータが大きく有意差がみられた。<BR>2.下肢挙上高別体幹筋の筋活動に関して<BR>腹直筋では腰痛なし群と腰痛自覚群の間に有意差はみられなかった。腹斜筋群では右ASLR40cmと左ASLR40cmで腰痛自覚群の筋活動が増加し有意差(P<0.01)がみられた。<BR><BR><BR>【考察】実効値は、原点からXY方向への作用点までの長さの2乗和の平均を算出したものある。X動揺SD、Y動揺SDは圧分布測定装置上のX軸(骨盤頭尾方向)、Y軸(骨盤水平方向)に対してのCOP移動軌跡を偶発的に大きく動いてしまった時のデータを除き、軌跡の標準偏差を算出したものである。腰痛自覚群では腰痛なし群と比較してASLR時の骨盤帯COP動揺が大きく、頭尾方向より水平方向への動揺が起こりやすいことが示唆された。また、下肢挙上高別体幹筋の筋活動に関しては腹斜筋群がASLR40cmの挙上高にて筋活動が増加することが示唆された。この腹斜筋群の過活動が骨盤動揺の一因と考えられ、腰痛自覚群では異なるモーターコントロールによる戦略をとっていると推測される。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】今回の結果をふまえ、今後、腰部骨盤帯の安定性評価として測定機器を使用しないASLRテストの臨床応用を検討したい。

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549368320
  • NII Article ID
    130004582355
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.c3o3069.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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