移乗動作に関連する転倒経験者の特性

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  • 移乗動作自立後の転倒群と非転倒群の比較

抄録

【目的】<BR> 当院回復期リハビリテーション病棟では、平成18年9月より移乗動作自立の可否に関して、起き上がり動作、端座位保持、靴の着脱、ブレーキ操作、患足・フットサポートの安全管理、方向転換、着座動作、患手の管理の8項目の安全性を看護師が評価し、3日連続で安全に実施できれば移乗動作自立とする、独自の評価基準である「トランスファー自立度チェック」を運用している。その基準を満たし移乗動作自立と判断された症例でも、移乗動作に関連した要因で転倒する症例がいることが問題となっている。そこで今回、トランスファー自立度チェックにより移乗動作自立と判定された後に転倒する症例の特性を把握し、より安全な自立を促すための視点を導き出すことを目的とした。<BR><BR>【方法】<BR> 対象は平成18年9月から平成21年8月に当院回復期リハビリテーション病棟に入院した患者で、トランスファー自立度チェックにより移乗動作が自立と判定された86名のうち、下記のデータ収集が可能であった68名(男性43名、女性25名、平均年齢は63.6歳、疾患名は脳血管障害63名、整形疾患2名、廃用症候群3名)とした。データの収集は、1.入院からトランスファー自立度チェックを開始するまでの転倒歴の有無、2.MMSE合計得点、3.移乗項目を除くFIM運動項目の合計得点と各項目得点、4.FIM認知項目の合計得点と各項目得点について、カルテからの情報収集を行った。なお、MMSE・FIMのデータはトランスファー自立度チェック実施時に最も近い日時のものを採用した。68名を移乗動作自立後の転倒の有無によって転倒群(n=13)と非転倒群(n=55)に分類し、収集したデータについて、SPSSVer.11J for Windowsを用いて、転倒歴の有無についてはFisherの直接法、MMSE合計得点・ FIM得点についてはMann-WhitneyのU検定を用いて、有意水準5%未満を有意とし比較分析を行った。なお、移乗動作自立後の転倒については、移乗動作が自立したことによってもたらされた転倒か否かを研究者間で話し合い、関連のないものは除外した。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 全ての調査はカルテより後方視的に抽出しており、対象者に有害事象は発生しなかった。また、匿名性の保持と個人情報流出防止に留意した。<BR><BR>【結果】<BR> 転倒群と非転倒群において、転倒歴、MMSE合計得点、移乗項目を除くFIM運動項目の合計得点および食事、整容、清拭、更衣上半身、更衣下半身、排尿管理、排便管理、移動、階段の各得点、FIM認知項目の合計得点および理解、表出、社会的交流、問題解決、記憶の各得点には有意差は認められなかった。有意差を認めた項目は、FIMのトイレ動作の得点(転倒群3.1±1.8、非転倒群4.7±1.9)のみであった。<BR><BR>【考察】<BR> 非転倒群と比較し、転倒群のトイレ動作のFIM得点は有意に低かった。トイレ動作を遂行するに当たっては、下衣を下ろす、便座に座る、お尻を拭く、水を流す、立ち上がる、下衣を上げる、といった動作が必要で、端座位保持能力、立位保持能力を求められる機会が多く、移乗動作との活動の類似点が多い。座位においては、トランスファー自立度チェックでは「端座位保持」「靴の着脱」の項目で評価されるが、トイレでの座位保持では座面が不安定であり、ベッドや車いす上での座位保持より高い能力が必要とされる。また、トランスファー自立度チェックでは「方向転換」を評価されるが、これは必ずしも立位保持能力を十分に反映しているものではない。<BR> 近年、脳血管障害例の動作場面での注意機能についての報告がなされており、動作中の認知課題が運動への注意を低下させることが確認されている。トイレ動作についても、立位保持と同時に下衣の上げ下げを行うなど多重課題時の処理能力も必要であり、移乗動作と比べるとトイレ動作の安定性にはより高次な注意機能や認知機能が求められていると考えられる。<BR> このように、トイレ動作は移乗動作との活動の類似点に加え、より高次な端座位保持能力や立位動作能力を必要とするため、転倒群と非転倒群に有意差がみられたのではないかと考えられた。今後は、さらに移乗動作の安全性とトイレ動作との関連性を検討するだけでなく、端座位保持能力や立位保持能力、多重課題時の処理能力との関連性を検討することで、トランスファー自立度チェックの評価基準の精度を向上させたい。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 移乗動作自立後の転倒に関して、トイレ動作の自立度が指標となる可能性が示唆された。このことは安全な自立を促すための理学療法介入の一助となり得るものである。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), BdPF2027-BdPF2027, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549371264
  • NII論文ID
    130005016971
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.bdpf2027.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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