2種類の肩関節外転運動における肩甲骨および上腕骨の運動
Description
【目的】臨床上、動作観察の一つとして肩関節の外転運動を行わせるが、肩関節疾患を有する症例は外転時の疼痛を訴えることが多く、その時の動作を再現させると、外転運動は他動運動では90度以上可能にもかかわらず、自動運動では90度以下で停止することが多い。これは外転運動中の肩甲骨と上腕骨の位置関係に問題があると考え、健常者に2種類の肩関節外転運動を行わせ、水平面上における肩甲骨と上腕骨の動作解析結果から、興味ある知見が得られたので報告する。<BR>【方法】外傷等の既往はない健常成人男性7名7肩(年齢24.71歳±1.50、全例右側)を対象とし、坐位における肩関節外転運動を高速カメラ4台で撮影し、3次元動作解析システムFrame-DIAS4(DKH社製)を用いて解析した。<BR> 外転運動は運動方向や時間等の規定は行わず、自然下垂位から、(1)「肩の高さまで手を挙げる」と口頭指示した外転運動(以下、制限外転)、および(2)「横から手を挙げる」と口頭指示した外転運動(以下、自由外転)の2種類とした。<BR> 体表マーカーは肩峰前角・後角および上腕骨内側上顆・外側上顆に貼付し、前角と後角を結ぶ線を線分S、線分Sの中点と内側上顆と外側上顆を結ぶ線の中点を結ぶ線を線分Hとし、前額面をX軸、矢状面をY軸に設定した。制限外転および自由外転(全可動域のうち制限外転角度と同様の運動範囲)について、線分Sおよび線分Hを水平面上に投影し、線分Hの最終域でのX軸に対する角度と運動の軌跡および線分Sの中点の運動の軌跡について観察した。<BR>【説明と同意】ヘルシンキ条約に基づいて本調査の趣旨を説明し、被験者の同意を得た。<BR>【結果】(1)制限外転(外転角度平均77.99°±4.28)について。運動終了時の線分Hは、全員がほぼ同様の角度(X軸から平均9.19°±4.61前方)を呈していたが、下垂位から外転した時の線分Hの運動の軌跡は、下垂位からほぼ一致した角度であった3名(H-1群)と下垂位から後方へ平行移動していた4名(H-2群)の2つのパターンに分類できた。<BR> また、線分Sの中点の運動の軌跡も自然下垂位から外転に従い、前後方向での変位がほとんどみられないS-1群と、外転運動と同時に後方に変位したS-2群の2つのパターンに分類でき、H-1群とS-1群、H-2群とS-2群は同じ被験者であった。<BR> (2)自由外転について。 運動終了時の線分HはX軸から平均15.97°±4.75前方を呈しており、制限外転よりも水平屈曲位を呈していた。特に制限外転で分類したH-2群はH-1群よりも水平屈曲位になっていたが、線分Hの運動の軌跡は全員が後方の移動を呈していた。 線分Sの中点は全員が運動開始と同時に後方に変位する軌跡を呈していた。<BR>【考察】 線分Sを肩甲骨、線分Hを上腕骨と仮定すると、制限外転の動作は、手を最終到達地点の肩の高さまで動かすために、水平面上での上腕骨の角度が変わらず肩甲骨の運動が生じるパターンと、上腕骨の水平伸展方向への運動要素が増加するとともに、肩甲骨の後方への移動が大きくなるパターンがあることが分かり、それは運動開始時の肩甲骨の位置、特に関節窩の向きによって運動様式が異なることが推測できた。今回の結果では、制限外転においてH-1群よりもH-2群の方が運動開始時に肩甲骨関節窩が前方に向いており、最終到達地点での肩甲上腕関節の角度を作るためには、H-1群よりもH-2群は肩甲骨を後方に移動する必要があり、それに伴い上腕骨の後方移動が生じたと考えられる。<BR> 今回の被検者は肩関節に既往のない者なので、最終到達地点に関節窩を向けるための運動が可能であったが、肩甲骨の運動が制限されている症例では、上腕骨は最終到達位置まで運動しようとする結果、肩関節外転運動時に肩甲上腕関節内で水平伸展が生じ、肩関節前方の伸張(または後方の圧縮)ストレスが生じ、これが疼痛の原因になることが推測できた。これは臨床上で見受けられる症状と一致するものと考えられるが、その症例に対しては、肩甲骨の運動制限を改善するのはもちろんのこと、外転の運動方向を認識するような指導が必要と思われる。<BR> また制限外転と自由外転での線分Hの角度の違いについては、口頭指示内容の差および運動が停止した位置または動作の途中で計測した角度の違いが考えられるが、どちらの運動もいわゆる外転運動で上腕骨が動いていると考えている前額面よりも前方を通過していたため、外転運動の動作観察時には、運動方向によって上腕骨と肩甲骨の位置関係が異なることを念頭に置くべきであり、静止画像を用いた実験と動画を用いた実験では計測結果が異なることが懸念された。<BR>【理学療法学研究としての意義】 外転動作時の肩甲骨および上腕骨の運動は、従来報告されてきたものと異なることが示唆され、動作観察・分析では運動方向を詳細に規定する必要性があることが示唆された。
Journal
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- Congress of the Japanese Physical Therapy Association
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Congress of the Japanese Physical Therapy Association 2009 (0), C4P1114-C4P1114, 2010
Japanese Physical Therapy Association(Renamed Japanese Society of Physical Therapy)
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Details 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680549386496
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- NII Article ID
- 130004582367
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- Text Lang
- ja
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- Data Source
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- JaLC
- CiNii Articles
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- Abstract License Flag
- Disallowed