Mirror therapyにおける運動学習転位の影響

DOI
  • 野嶌 一平
    西江井島病院リハビリテーション科 神戸大学大学院保健学研究科
  • 奥野 史也
    西江井島病院リハビリテーション科
  • 美馬 達哉
    京都大学大学院医学研究科附属脳機能総合研究センター
  • 川又 敏男
    神戸大学大学院保健学研究科

抄録

【はじめに、目的】 我々はmirror therapy(以下MT)による運動学習効果の神経生理学的機序について経頭蓋磁気刺激(TMS)を用いて検討し、MTにより運動同側の一次運動野(以下M1)が活性化されることが運動学習効果に強く影響している可能性を報告した(第46回日本理学療法学術大会)。しかし、運動同側のM1がどのような機序で活性化されるかは不明であった。鏡像を見ることによる視覚入力に加えて、運動対側のM1が実際の運動により活性化され、半球間連絡を通じて運動同側のM1の興奮性を増大する機序が考えられる。そこで今回、大脳半球間の機能的連結、すなわち運動学習転位がMTによる運動学習効果に影響している可能性を検討するため、特に両側M1の機能を評価する方法である半球間抑制(IHI:Interhemispheric Inhibition)を指標とした両側半球間連結と両手の運動機能変化の関係性を検討する。【方法】 本研究は2段階構成とした。実験1では、まずMTによる運動機能変化とIHIを含む脳機能変化の関係性を検討、次に実験2で運動学習転位の効果を検討するため、運動機能変化を検討した。被験者は健常成人とし、実験1で20名(22.3±2.2歳)、実験2で27名(28.2±8.4歳)とした。運動課題は2つのコルクボールを30秒間、左手で反時計回りにできるだけ早く回す課題とした。実験1ではMT の運動機能と脳機能への効果と大脳半球間の連結を検討するためTMSを用いて脳機能を検討した。被験者はMT 群と鏡の代わりに透明板を用いて視覚フィードバックを制限したnon-MT(以下nMT) 群に振り分けた。TMSの刺激領域は右一次運動野(M1)とし、左背側骨間筋(FDI)より運動誘発電位(MEP)を表面筋電図にて導出した。介入前でMEPが1.0mV程度となる強度に出力を決めて、介入前後でMEP計測を実施した。IHI計測は2つの刺激コイルを使用して、運動対側(右M1)から運動同側(左M1)への半球間抑制を測定した。刺激は、FDIを支配する左M1に条件刺激、右M1にテスト刺激を与えた。両刺激の時間間隔は10msと40msの2種類とした。実験2では運動学習転位の効果をさらに詳細に検討するため、MT群とnMT 群に加えて、鏡の代わりにモニター画面を用いて運動課題を提示する行動観察(AO:action observation)群を設定し、介入前後の両手での運動機能変化を検討した。統計学的検討は、両実験ともにtwo-way ANOVAを用い、post hoc検定はBonferroni補正を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、京都大学倫理委員会の承認を得て実施した。また、被験者は医師から口頭で実験内容を十分説明され、実験への参加は任意とした。【結果】 実験1におけるボール回し回数は、MT群で介入前20.4回が介入後26.6回、nMT群で前22.0回が後23.7回となった。MEPに関しても、MT群で前1250μVが後1785μV、nMT群で前987μVが後968μVとなり、MT群で有意な運動機能の向上とM1興奮性の上昇が示しされた。IHIに関しては刺激間隔10msと40msで共に両群に有意な差を認めなかった。実験2では各群における運動機能変化を検討した。非練習側である左手では、MT群で22.9回が28.3回、nMT群で24.4回が24.4回、AO群で25.0回が29.6回であり、MT群とAO群がnMT群に比べ有意な学習効果を示した。一方練習側である右手では、MT群で19.4回が24.8±2.4回、nMT群で23.1±2.3回が27.0±2.3回、AO群で23.2±1.6回が22.7±1.6回となり、MT群とnMT群がAO群に比べ有意な学習効果を示した。【考察】 実験1よりMTによる同側M1の興奮性増大に伴う運動機能の向上が示された。しかし、IHIの結果より、その神経生理学的機序として対側半球からの連結の影響は小さいことが示唆された。また実験1,2のnMT群で運動学習転位が見られなかったことから、本実験で用いた運動学習課題での対側肢への運動学習転位の影響は小さかったと考える。一方、非練習側である左手で、MT群と同様AO群でも運動学習効果が示されたことは、MTの効果発現機序として視覚フィードバックの重要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 運動学習効果の獲得は理学療法にとって非常に重要である。その学習効果を神経生理学的視点と運動学的視点から検討することは、理学療法のエビデンス構築に寄与するものと考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ab0698-Ab0698, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549396736
  • NII論文ID
    130004692466
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ab0698.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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