急性期からの縦断的データに基づく脳卒中患者の転帰予測

DOI
  • 山本 泰三
    取手協同病院 リハビリテーションセンター
  • 須藤 聡
    取手協同病院 リハビリテーションセンター
  • 井上 桂輔
    取手協同病院 リハビリテーションセンター
  • 関屋 曻
    昭和大学保健医療学部 理学療法学科

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抄録

【目的】2000年の回復期リハビリテーション(以下、回復期リハビリ)病棟の導入以来、回復期リハビリ病棟の機能はBarthel Index(以下BI)やFIM、日常生活機能指標によって検討され、回復期リハビリ病棟への入棟時からの日常生活能力の変化、自宅退院率、及び在院日数がアウトカムとして用いられている。当院は急性期病院であり、回復期リハビリ病棟がないので、地域完結型の連携体制をとっている。2003年より回復期リハビリ病院の転帰時に当院へ返還される形態の経過報告書を導入し、2008年より脳卒中連携パスを導入したので、急性期からの縦断的データが把握できるようになった。本研究は、急性期病院からのBIの縦断的データにより、回復期リハビリ病院の転帰がどの程度予測できるかを明らかにすることを目的とした。<BR>【方法】当院でリハビリテーションを実施後に経過報告書を送付し、かつ、2008年6月から2010年2月までに脳卒中連携パスが当院へ返却された88名のうち、死亡2名と新規疾病により当院へ転院した14名を除いた72名を対象とした。脳梗塞44名、脳出血27名、くも膜下出血1名で、男性41名、女性31名であった。回復期リハビリ病院の転帰が自宅となったものを自宅群、療養型病院と介護老人保健施設へ入所となったものを非自宅群とした。調査項目は、年齢、当院入院時のBI合計点(以下、急性期入院時BI)、当院転院時のBI合計点(以下、急性期転院時BI)、回復期リハビリ病院退院時のBI合計点(以下、回復期退院時BI)とし、回復期リハビリ病院の転帰との関連性をロジスティック回帰の変数減少法を用いて解析した。回帰モデルの適合性をROC曲線にて評価し、自宅群か非自宅群かのカットオフ値を推定した。急性期病院在院中のBIと回復期リハビリ病院の転帰との関連性を検討するために回復期退院時BIを除いて同様にロジスティック解析を行った。BIの各項目と回復期リハビリ病院の転帰との関連は分割表分析にて検討した。統計処理にはSPSSを用い、有意水準を0.05とした。<BR>【説明と同意】リハビリテーション経過報告書と脳卒中連携パスは患者同意の上に作成した。データ解析は、個人を特定する氏名、生年月日を削除して行った。<BR>【結果】回復期リハビリ病院の転帰が自宅群の年齢は69.9±9.4歳で、非自宅群は75.8±11.1歳であった。転帰(自宅退院、非自宅)を従属変数、年齢と各時期でのBIを独立変数としたロジスティック回帰解析の結果、回復期退院時BIが独立変数として選択された(p<0.001)。オッズ比は1.069で回復期退院時BIが5点増加すると自宅退院へ1.40倍となる。回復期退院時BIを除いた急性期病院在院中のBIを独立変数とした結果、急性期転院時BIが独立変数として選択された(p<0.001)。オッズ比は1.046で急性期転院時BIが5点増加すると自宅退院へ1.25倍となる。このように急性期転院時BIによるオッズ比は回復期退院時BIより低い。ROC曲線より、自宅群と非自宅群の判別のための回復期退院時BIカットオフ値は65点、感度は98%、特異度は88%であった。急性期転院時BIのカットオフ値は35点、感度は80%、特異度は76%であった。BIの各項目と回復期リハビリ病院の転帰は急性期入院時には食事・排尿・排便の項目と、急性期転院時には入浴以外の9項目と、回復期退院時にはすべての項目と有意に関連していた。<BR>【考察】急性期から回復期リハビリ病院の転帰を縦断的に検討した結果から、自宅退院のためには回復期リハビリ病院の退院時のBIが65点以上であることが必要であり、判別の感度は98%で特異度は88%と高い信頼性が示された。急性期転院時のBIを用いると35点以上が必要であり、感度80%で特異度76%と回復期リハビリ病院の転帰を予測できた。筆者は以前の研究にて、回復期リハビリ病院の転帰が非自宅群のBI合計点は急性期転院時から回復期退院時に有意に変化しておらず、非自宅群の回復期リハビリ病院の在院日数は長期化していると報告した。急性期転院時BIが35点以上であることが回復期リハビリ病院の転帰が自宅退院となるカットオフ値であり、35点未満の場合の回復期リハビリ病院での在院日数を再検討する必要性があると考える。BIの各項目との検討では、食事、排尿、排便の3項目が急性期入院時から関連性が強く、二木らの予後に関連する食事、寝返り、尿意の3項目と類似した結果となった。急性期入院時に食事と排泄が重要なポイントと考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】今までの回復期リハビリ病院のアウトカムでは横断的データによる自宅復帰率やADLの変化の比較が多く、各時期のADL能力による転帰予測が不十分である。本研究における脳卒中患者の縦断的データに基づく結果は、高い精度で各時期に転帰先を予測するデータと成りえる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), BeOS3027-BeOS3027, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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