TKA・UKA術後の患者における跪き動作の実施状況とその制限因子

説明

【目的】<BR> 跪き動作(以下,Kneel)は,生活動作の中で重要な動作である.特に本邦の生活習慣では,Kneelを行う場面は多い.先行研究では,人工膝関節術後に120度以上の膝屈曲ROMがあればKneel可能とされているが,本邦で人工膝関節置換術後のKneel実施状況に関する報告は無い.本研究では,人工膝関節置換術後患者のKneel実施状況と実際の能力,またKneelを制限している身体機能的な要因を抽出することを目的とした.<BR>【方法】<BR> 当院にて人工膝関節置換術を施行後,術後5ヶ月以上経過した者を対象とした.選択基準は術肢膝関節の屈曲ROMが120度以上とし,他の整形外科的既往,関節リウマチ,また中枢神経系疾患を有する者は除外した.対象にKneelについてアンケート調査とKneel能力評価,および身体機能評価を実施した.アンケート内容は生活場面でのKneelの実施状況(Q1)について1)日常的によく膝をつく,2)必要があれば膝をつく,3)全く膝をつかない,の3段階で回答を求め,1)または2)と答えた者には動作を行う生活場面を,3)と答えた者にはその理由を聴取した.その後,実際にマット上にてKneelを行い,Kneel能力(Q2)について自覚的に1)問題なく可能,2)少し困難だが可能,3)中等度困難であるが可能,4)かなり困難,5)不可能,の5段階で回答を求め,4)または5)と答えた者にはその理由を聴取した.最後にKneel実施希望の有無(Q3)についても「膝をつきたいと思う」「どちらでもない」「膝をつきたいと思わない」の3段階で回答を求めた.またセラピストがKneelの可否について客観的に評価し,Kneel可能群(Kneel群)とKneel不可能群(non-kneel群)の2群に分けた.身体機能評価の評価項目は膝関節,股関節,足関節の各屈曲,伸展ROM,等尺性膝関節伸展筋トルク(Quad),膝関節前面の感覚障害,Kneel時の疼痛とした.各ROM測定はゴニオメータを用い,Quadはハンドヘルドダイナモメーター(μ-Tas F-1,アニマ社)にて測定した値を体重で除し,レバーアームを乗じた.感覚障害,疼痛評価にはNRSを用いた.統計解析は回収したアンケート内容に対し,記述的統計処理と要約を行った.Kneel群とnon-kneel群の2群でロジスティック回帰分析を行い,要因として身体機能評価,性別,年齢,術式,BMI,術側,術後経過日数を加えた.有意水準は5%未満とした.<BR>【説明と同意】<BR> 対象には事前に本研究の趣旨を説明し,同意が得られた者に対しアンケートと身体機能評価を実施した.<BR>【結果】<BR> 対象は39名(男性8名,女性31名,平均年齢73.6歳)であった.術式・術側の内訳は片側Total knee arthroplasty(以下,TKA)6名,片側Unicompartmental knee arthroplasty(以下,UKA)5名,両側TKA11名,両側UKA13名,両側例で片側TKAと片側UKAの施行が4名であった.アンケート結果からQ1は「日常的に膝をつく」「必要があれば膝をつく」が12名(31%)で,その内容は「家事動作」「趣味活動」「和式生活」という回答であった.「全く膝をつかない」が27名(69%)であり,その理由としては「不安感や怖さ」「膝をついてはいけないと思っていた」という項目が上位であった.「全く膝をつかない」と答えた対象のうち,Q2は「問題なく可能」が10名,「少し困難であるが可能」が5名,「中等度困難であるが可能」3名,「かなり困難」が9名であり,不可能と答えた対象はいなかった.Kneel能力について「かなり困難」と答えた9名は「膝関節の痛み,硬さ」「不安感や怖さ」を理由としていた.また「全く膝をつかない」と答えた27名のうち18名(67%)がQ3で「膝をつきたいと思う」と答えた.セラピストによるKneel能力の客観的な評価では39名中31名(79.5%)がKneel可能であった.ロジスティック回帰分析の結果は,要因として股関節伸展ROM,足関節底屈ROM,疼痛,Quadが選択され,寄与率は0.64であった.<BR>【考察】<BR> 今回のアンケート結果から,全体の約3割しか生活場面でKneelを実施していなかったが,実際は8割近くの対象がKneel可能であり,7割近くがその必要性を感じていた.生活場面でKneelを行わない理由は心理的要因,動作への誤解が多く,術後の患者教育などの介入が必要と思われる.ロジスティック回帰分析の結果から抽出された股関節伸展制限,足関節底屈制限,Quadの低下は,Kneel時の術肢膝関節により大きな屈曲を要求し,動作の制限につながるのではないかと考える.今後の課題として,動作を困難にしている疼痛の原因やKneel時の股関節周囲筋の活動についてはさらなる検討が必要である.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 人工膝関節術後の症例に対し,Kneelに対する患者教育とともに,下肢関節に対する理学療法介入で動作能力向上を図ることは,術後のQOLや患者満足度の向上につながると考える.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), CaOI2028-CaOI2028, 2011

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549427584
  • NII論文ID
    130005017018
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.caoi2028.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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