静止立位と歩行時における骨盤回旋及び挙上角度の関係性

DOI
  • 萩原 耕作
    海老名総合病院 リハビリテーション科 文京学院大学大学院 保健医療科学研究科
  • 福井 勉
    文京学院大学大学院 保健医療科学研究科 文京学院大学 スポーツマネジメント研究所

抄録

【目的】 臨床において立位姿勢を変化させることで歩行動態が変化することを多く経験する。このように姿勢に対するアプローチは理学療法における有効な手段となる可能性があると考えられる。立位姿勢における骨盤位置の空間上での回旋角度や挙上角度の左右差を観察することによってわれわれは四肢の動きを分析及び予測している。つまり、歩き出す前の立位姿勢における骨盤回旋及び挙上角度の左右差は歩行に影響を与え,何らかの機能的な意味を有していると考えられる。しかし、立位姿勢と歩行動態の関係を示す報告は少ない。そこで本研究では静止立位と歩行中の骨盤回旋及び挙上角度がどのような関係性を有するか検討した。【方法】 対象は整形外科的および神経学的疾患のない健常男性11名(平均年齢27.81±2.82歳,身長176.5±5.24cm、体重75.0±7.75kg)であった。計測機器は三次元動作解析装置(VICON Motion system社 MXカメラ8台)を用い、サンプリング周波数100Hzで計測した。赤外線マーカーはplug in gait full body model に基づく35点を身体に貼付した。計測動作は5秒間の静止立位と、その後の自由歩行とし、動作は5回実施した。立位時の歩隔や歩行速度は任意とした。口頭指示は「正面の印を見ながら歩いて下さい」とするのみであり、数回練習を行った後計測した。取得した計測パラメーターは左右の上前腸骨棘を結ぶ直線が前額面との成す角を「骨盤回旋角度」、水平面となす角を「骨盤挙上角度」と定義し、プラス方向が骨盤の左回旋及び右挙上とした。立位姿勢時の骨盤回旋及び挙上角度は5秒間の静止立位時の平均値とした。定常歩行とされる第5歩目のInitial Contactから第7歩目のInitial Contactまで(第5歩目と第6歩目の2ステップ分)の骨盤回旋及び挙上角度の平均値をそれぞれ求めた。静止立位時の「骨盤回旋角度」と歩行時の「骨盤回旋角度」、及び静止立位時の「骨盤挙上角度」と歩行時の「骨盤挙上角度」について相関分析を行った。統計分析はShapiro-Wilk検定にて正規性の確認後、Pearsonの積率相関係数を求めた。統計学的分析にはSPSS 12J(SPSS Inc.)を用い、危険率は1%未満とした。【説明と同意】 本研究は文京学院大学大学院保健医療科学研究科倫理委員会にて承認を得た。被検者に対して、本研究への参加は被検者の自由意志によるものであることを十分に説明し、研究に参加しないことによる不利益が生じないことを述べた。被検者各人に口頭にて「対象とする個人の人権擁護、研究の目的、方法、参加することによる予想される利益と起こるかもしれない不利益について、個人情報の保護について、研究協力に同意しなくても何ら不利益を受けないこと、研究協力に同意した後でも自由に取りやめることが可能であること、計測中に生じうる危険」を説明し、同意を得た。【結果】 静止立位時と歩行時の骨盤回旋角度は、有意な相関関係を認めた(r=0.82;p<0.01)。また静止立位時と歩行時の骨盤挙上角度との関係についても有意な相関関係を認めた(r=0.58;p<0.01)。すなわち、それぞれの角度変化は一方が大きくなるほど他方も大きくなる関係であった。【考察】 結果より、静止立位における骨盤回旋及び挙上角度は歩行時でも同方向に回旋、挙上する傾向を示したことは、立位姿勢の特徴が歩行中にも反映していたことになる。中村らは歩行時の骨盤回旋角度を片側4°ずつ回旋するとしたが、本研究では右回旋5.28±2.07°、左回旋3.53±2.97°と左右差を認めた。このような骨盤回旋角度の左右差は左右の下肢機能の役割に対しても影響を与える可能性があると考えられる。しかし、本研究では個々のデータの中には必ずしも静止立位と歩行の骨盤回旋角度が同方向を示していない例もあり、静止立位と歩行の骨盤回旋角度の関係因子までは言及できていない。今後は静止立位と歩行における身体重心との関係や体幹や下肢の関節運動、関節モーメントの左右差なども検討しその関係性を明確にする所存である。【理学療法学研究としての意義】 本研究により立位姿勢と歩行の骨盤運動の関係性が示されたことで、臨床において歩行障害に対しどのように立位姿勢を促すことが効果的かを判断する一指標となり、個々の患者の特性に応じた姿勢アプローチの一助となると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ab0655-Ab0655, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549446400
  • NII論文ID
    130004692423
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ab0655.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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