会話分析を援用したトランスファー指導

DOI

抄録

【はじめに、目的】 トランスファー技術の習得は、臨床実習で患者の安全確保するためにも学生にとって重要な要素の1つである。その学習は当学科では複数学年、複数科目で繰り返し学べるようにしてある。臨床実習前には、当学科独自の客観的臨床能試験(Objective Structured Clinical Examination,以下OSCE)を実施しているが、トランスファー課題も含まれている。OSCE実施に至るまでに、筆記テスト、実技テストを行い知識技術の習熟度をチェックし、学生同士での練習を重ねている。にもかかわらず、OSCEや臨床実習の場面でうまく出来ない学生は出てくる。そこで、今回はトランスファー課題実施場面について会話分析法を用いて分析し、学生にどのような実践的指導をしたらよいかを検討したので報告する。【方法】 理学療法学科3年学生27名にOSCEを実施し、その中の課題の1つであるトランスファー場面を分析対象とした。トランスファーが1回で成功した学生(以下、成功例)と複数回で成功した学生(以下、失敗例)の中から、典型例として成功例2名、失敗例3名計5名を対象とした。方法としては、会話分析法を用い、ビデオ記録から会話を書き起こし、その内容から学生が失敗しやすい会話や行動、成功に結びつく会話や行動を明らかにした。【倫理的配慮、説明と同意】 学生にはOSCE実施場面をビデオ録画すること、および、そのデータを分析し学会報告に使用する旨を説明し、同意を得た。【結果】 5例の学生とも、基本的言葉使いは丁寧であり、患者に対して配慮しようとする気持ちはうかがわれた。車イスからベッドへのトランスファー課題において、車イスとベッドの基本的配置は適正で、全5例同じ条件からの開始であった。成功例では、1)患者の名前を呼び、患者の注意を喚起していた。2)言語指示だけでなく、患者の手足に触れて指示をする(直示)などのノンバーバルコミュニケーションの活用が多かった。3)これからどうするかの予定説明を明確にしていた。4)患者の反応を待ってから次の動作に移った、という特徴が見られた。失敗例では、1)最初は患者の話を聞いているが、後半焦ってくると一方的な会話になった。2)指示の仕方が曖昧で、特に「左右」の指示をする場合に学生自らが混乱していた。3)患者に近づきすぎて患者の動きが視界から外れることにより患者の動作の予測ができなくなった、という特徴が見られた。【考察】 基本的トランスファー技術の習得においては、一連の動作を「相」ごとに分解して指導することが一般的である。また、臨床実習に向けた、実践的な技術の側面については、学内で学生同士練習相手を替えること、OSCEの実施、さらにその場面をビデオ撮影し、フィードバック指導として実施している。繰り返し学習することで、基本的技術はある程度習得できるが、それ以外の側面、特に対人能力の側面に対しては十分な効果が得られていない。例えば、学生にビデオを見せてもトランスファー技術面の議論に終始してしまうことが多く、対人能力面の気づきを促すことについては不十分であった。そこで今回、会話分析を援用してビデオの見方を変え、患者との相互行為という視点を含めてトランスファー場面を分析したところ、学生の具体的会話や行動パターンを明らかにすることが出来た。質的研究の1つである会話分析は、すぐには一般化できないという制約はあるが、複数の学生が起こしやすい行動を丹念に見ることで、実践的指導としての「症例を学ぶ」「場数を踏む」ことの代用になるのではないかと考えられた。【理学療法学研究としての意義】 本報告結果からは、トランスファー技術の習得において、技術面だけでなく、会話分析を援用して行為を多角的に見ることにより、学生の経験不足を補う実践的な指導につながる可能性が示唆された。今後はその実践結果や効果について検討することにより、理学療法教育に寄与できるものと考えられる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ge0073-Ge0073, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549490944
  • NII論文ID
    130004693750
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ge0073.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ