高位脛骨骨切り術施行後の術後成績

  • 河本 徹
    熊本整形外科病院リハビリテーション科

Description

【はじめに、目的】 変形性膝関節症(以下OA)に対する観血的治療法として、人工膝関節置換術、高位脛骨骨切り術(以下HTO)、鏡視下術などが挙げられる。HTOは関節構造を温存する治療法であり、初期~進行期のOAや、比較的若い年齢層を対象に行われている。膝関節の内側を通過する荷重線を、脛骨の矯正骨切りを行う事で外側へ移動し、膝関節内側構成体への力学的ストレスを改善することが目的である。しかし矯正骨切りを行うが故、骨癒合までの期間を要し、実用歩行獲得までの期間や入院期間の長期化が問題となってくる。このため内固定材の開発や、骨切り術式の改良、後療法の改善等により課題克服への取り組みが行われている。今回、HTO術後の治療成績および入院期間に関与する因子の検討を行った結果、若干の知見を得たため報告する。【方法】 当院にて、2008年1月~2010年8月末までに、OA診断後HTO施行した症例の中で、抜釘手術を施行し経過観察可能であった症例33膝を対象とした。HTO施行時平均年齢57.6±6.3歳、女性23例、男性6例、右側19膝、左側14膝であった。術前および抜釘手術前の膝機能評価より、膝関節屈曲及び伸展可動域、日本整形外科学会案のOA治療成績判定基準(以下JOA)を調査した。レントゲン所見より、術後及び抜釘手術後の臥位での大腿脛骨角(以下FTA)を計測し、抜釘術後FTAと術後FTAの差(以下FTA差)を求めた。また、荷重開始時期(部分荷重開始及び全荷重開始)、坐骨支持免荷装具(以下LLB)作成の有無を調査した。上記のデータを基に、A.膝機能評価の術前と抜釘手術前の比較、B.FTAと膝機能評価の相関、C.入院日数と膝機能評価、荷重開始時期、年齢との相関、D.LLB作成有無での、入院日数、膝機能評価、FTA差の比較を行った。検定は、比較をWillcoxonの符号順位検定、Mann-WhitneyのU検定を用い、相関はSpearmanの順位相関を用いて行い、いずれの検定も有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本調査は、ヘルシンキ宣言に則り、個人情報保護に十分注意し行った。【結果】 A.抜釘手術時の術後経過日数は平均364.5±46.2日であった。術前機能評価の平均値は、膝関節屈曲136.7±10.0度、伸展-3.0±4.5度、JOAは総合73.5±9.3点であった。抜釘手術前は、屈曲139.5±7.6度、伸展-0.3±1.7度、JOAは総合89.7±6.8点であり、術前と比較し全て有意差が認められた。B.術後FTAは平均168.9±3.4度、抜釘手術後は170.5±3.7度であった。いずれも膝機能評価との相関は認めなかった。C.入院日数は平均59.7±9.4日、荷重開始時期は、部分荷重20.8±3.8日、全荷重42.9±4.5日であった。入院期間と術前・抜釘手術前での膝関節可動域、荷重開始時期、年齢との相関は認められなかったが、術前のJOAとでは相関が認められた(r=-0.382)。D.対象症例の内LLB作成しているのは26膝であった。LLB作成有無での入院期間、膝機能評価及びFTA差に有意差は認めなかった。【考察】 現在、HTOは楔状骨切り術やDome状骨切り術、逆V字型の骨切り術などが施行されている。楔状骨切り術は楔状外反矯正骨切り術と楔状開大骨切り術に分けられるが、当院では前者を施行している。術後は良好な成績を認め、術後膝機能評価では全てにおいて有意差を認めた。しかし、術後入院期間は約2ヶ月と長期間である。長期入院の因子として、入院期間と術前のJOA総合点は負の相関を認めており、入院前の疼痛や移動能力が入院期間に影響していることが示唆された。また、対象者のほとんどが、全荷重の許可後もしくはLLB除去後に退院しており、それ以前の状態での退院は1例のみであった。免荷・部分荷重の状況では、バリアフリー環境下や、高齢者では介助者がいなければ退院が困難であり通院も困難であると考えられる。また、免荷や部分荷重の状況での歩行には、非術側の下肢機能の状態も重要である。対象者は両側性でのOAも多く、非術側下肢の支持性が低い場合は、荷重制限期間の歩行の安定化を考えればLLB装着が望ましい。しかし、LLB装着の状態でのADL遂行は困難であり、LLB作成有無での膝機能やFTA差に有意差を認めない事から、早期退院を考えれば作成対象者を考慮すべきと考える。【理学療法学研究としての意義】 術後早期退院に向け、移動能力の確立、在宅環境整備が今後の課題となるのではないかと考える。また同時に、機能評価のみでなく、術後の患者満足度などのアンケート調査も行う必要があると考える。

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549509888
  • NII Article ID
    130004693036
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.cb0710.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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