太極拳運動特性を取り入れた転倒予防バランス体操の効果
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- -運動機能の効果について-
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説明
【はじめに、目的】わが国の要介護者に至る原因で転倒・骨折が第5位であり,高齢者の転倒による骨折は10.3%である.したがって転倒予防による介護予防を図ることは急務である.太極拳は健常高齢者において転倒予防に高い効果を報告しているが,障害高齢者における効果は明らかにされていない.よって,我々は障害高齢者にも実施可能な太極拳の動作要素特性を取り入れた転倒予防バランス体操(以下,バランス体操)について報告した(日本理学療法学術大会,2012).このバランス体操を用いて障害高齢者に対する転倒予防効果を転倒率において検証したところ,実施者と非実施者において有意な転倒率の低下を示した(日本臨床バイオメカニックス学会,2012).しかし,バランス体操を実施による運動機能の影響については明確になっていない.そのため,本研究におけるバランス体操による障害高齢者に対する転倒予防効果を運動機能変化によって検証した.【方法】当院外来リハビリおよびデイケアを利用し著しい認知機能低下のない,自助具を用いて歩行自立している障害高齢者の中から,バランス体操参加者10名(以下,体操群)と不参加13名(以下,対照群)を対象とした.頻度は1‐2回/週,1回約45分とし6ヶ月間実施した.初回時に一般情報として年齢,身長と体重,性別,所属,疾患状態およびBarthel Index(以下,BI)を聴取し,初回,3ヶ月および6ヶ月後の転倒状況,運動機能として膝伸展筋力,快適・最大歩行速度,開眼片脚保持時間(以下,OLS),functional reach(以下,FR)およびTimed up & go Test(以下,TUG)を測定した.統計的に一般情報は年齢,BMIおよびBIは独立したサンプルのt検定とし,その他はPearsonのχ²検定を行った.運動機能項目は,群間比較で独立したサンプルのt検定,群内比較は反復測定による一元配置分散分析を行い,多重比較法はBonferroni法を用い,有意水準は危険率5%未満とした.また,初回と6ヶ月後の各運動機能に対してCohenらの効果量を算出した.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には研究内容と方法について口頭および書面にて十分に説明を行った後に書面にて同意を得た.なお本研究の内容は,かなめ病院倫理委員会にて承認を受けた.【結果】一般情報は,全項目において有意差は認めなかった.運動機能では,群間において初回におけるFRにおいて有意差を認められた(p<0.05).各群における各運動機能の変化は,群内では有意な差は認めなかったが,多重比較法における体操群において膝伸展筋力の初回と6ヶ月後にて有意な向上を認めた(p<0.05).また,FRにおいて体操群で3ヶ月と6ヶ月後に有意な向上を認めた(p<0.05). また,効果量における体操群の膝伸展筋力のみ大きな効果を認められた(r値:0.75).【考察】障害高齢者に対する太極拳特性動作要素を取り入れたバランス体操の6ヶ月の実施により,膝伸展筋力の増加が認められた.この結果は,Lanらの太極拳を6ヶ月間実施し膝伸展最大トルクが増加したとする報告と一致していた.太極拳による筋力増強の要因として,高橋らは,太極拳は,足,膝,股関節を屈曲位に保ちながら行うので,体重負荷のかかる下肢の筋力が増加すると述べており,バランス体操は,この指摘する動作と類似していることから今回の太極拳特性動作要素である「重心移動動作」「片足立ち動作」「膝関節屈伸動作」を取り入れた体操が,膝伸展筋に強い荷重を負荷したことにより,その筋力増強につながった可能性が考えられた.体操群の筋力強化と転倒率低下の因果関係について,Rubensteinらは,転倒は筋力低下が最も関連すると述べているが,Lordらは,筋力強化での転倒率改善効果は1年間を要したと報告している.これは単純な筋力強化の介入では,転倒予防効果を得るには長期間を要すると考えられる.しかし,本研究において6ヶ月間で筋力増強と転倒率改善の効果が得られたことから,複合運動要素を有している太極拳の方がより転倒率改善に効果が得られやすい可能性が推察された.【理学療法学研究としての意義】本研究のような運動分析法を通して太極拳特性動作要素を取り入れ,しかも比較的容易に実施可能な体操を用い,障害高齢者の転倒予防効果を示した報告は見当たらない.本研究結果より,障害高齢者において太極拳特性動作要素を取り入れた運動による筋力増強効果により転倒率改善が示唆された.このことは,今後の障害高齢者の転倒予防対策における太極拳の活用において有用な知見となることが考えられる.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2012 (0), 48100024-48100024, 2013
公益社団法人 日本理学療法士協会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680549518720
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- NII論文ID
- 130004584624
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可