在宅高齢者における床からの立ち上がり動作の自立の可否と基本動作能力および身体機能との関連

  • 橋立 博幸
    杏林大学保健学部理学療法学科
  • 澤田 圭祐
    医療法人笹本会おおくに訪問リハビリテーション 医療法人笹本会おおくに介護予防通所介護
  • 柴田 未里
    医療法人笹本会おおくに介護予防通所介護
  • 浅野 克俊
    医療法人笹本会おおくに介護予防通所介護
  • 嶋崎 聡美
    医療法人笹本会おおくに訪問リハビリテーション
  • 千葉 美幸
    医療法人笹本会おおくに通所リハビリテーション

Description

【はじめに,目的】和式生活を営む在宅高齢者が自宅における諸活動を遂行する際には,移動動作や移動の起点となる椅子からの立ち上がり動作だけでなく床からの立ち上がり動作が十分に遂行可能であることが求められる.これまで床からの立ち上がり動作と基本動作能力および身体機能との関連が検証されてきたが,より重度の障害を有する在宅高齢者における床からの立ち上がり動作能力と他の基本動作能力との関連については十分に検討されていない.本研究では,在宅高齢者における床からの立ち上がり動作の自立の可否と日常生活における主要な基本動作能力および身体機能との関連について検証することを目的とした.【方法】訪問リハビリテーションを利用した65 歳以上の高齢者57 人(平均年齢75.3 ± 9.2 歳)を対象に,基本動作能力(bedside mobility scale(BMS))および身体機能(握力,膝伸展筋力,片脚立位保持時間(OLS),chair stand test(CST),timed up and go test(TUG))を横断的に調査した.握力はデジタル握力計,膝伸展筋力は徒手筋力計を用い,それぞれ左右両側について計測した左右の最大値を代表値とした.OLSは開眼での片脚立位の最大保持時間をストップウォッチにて計測した.CSTは30 秒間における椅子からの立ち上がり着座動作の最大反復回数を計測した.TUGは椅座位から起立し3mを通常速度にて往復歩行した後に椅子へ着座するまでの所要時間をストップウォッチにて計測した.BMSは,10 項目の基本動作(寝返り,ベッド上での移動,起き上がり,ベッド上での坐位保持,坐位で物を拾う,立ち上がり,立位保持,車椅子への移乗,椅子上での坐位保持,移動)の自立度をそれぞれ全介助0 点から自立4 点にて調査し,40 点満点で得点化した.統計学的解析では,まず,物的介助の有無を問わず長座位から人的介助を伴わずに立位に至る動作の自立可否によって対象者を自立群と非自立群の2 群に分け,Mann-Whitney U検定を用いて各指標を群間比較した.また,床からの立ち上がり動作自立の可否を従属変数,群間比較で有意差が認められた身体機能を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析(ステップワイズ法)を,年齢,性別,主な既往疾患,認知機能(mental status questionnaire(MSQ))で調整して実施した.【倫理的配慮,説明と同意】本研究の実施に際して,対象者または家族介護者に対して口頭と書面にて研究概要を事前に説明し同意を得た.なお,本研究は杏林大学保健学部倫理委員会の承認(承認番号23-50)を得て実施した.【結果】群間比較の結果,床からの立ち上がり動作自立群は非自立群に比べてBMS合計点,BMS下位8 項目(寝返り,ベッド上での移動,起き上がり,坐位で物を拾う,立ち上がり,立位保持,車椅子への移乗,移動),CST,OLS,TUGの成績が有意に高い値を示した.BMS下位2 項目(ベッド上での坐位保持,椅子上での坐位保持),握力,膝伸展筋力について有意な群間差は認められなかった.また,多重ロジスティック回帰分析の結果,床からの立ち上がり動作の自立可否に対する有意な関連項目としてCSTが抽出されたが,OLS,TUGは有意な関連がみられなかった.【考察】床からの立ち上がり動作自立群は非自立群に比べて,主だった基本動作の自立度や,立ち上がり動作,片脚立位保持時間,歩行機能が有意に良好であったことから,床からの立ち上がりのように応用的な立ち上がり動作が自立した在宅高齢者は,主要な基本動作能力が良好である傾向にあるため,床からの立ち上がり動作も良好に維持されている可能性があると考えられた.また,比較的健康な地域在住高齢者を対象とした先行研究では床からの立ち上がり動作のパフォーマンスに対して,TUG,歩行時間,下肢筋力,片脚立位保持時間が独立して関係する因子であることが報告されているが,本研究では床からの立ち上がり動作の自立可否に対してOLSやTUGではなくCSTが関連した.訪問リハビリテーションを利用する障害がより重度な高齢者では,比較的健康な高齢者に比べて床からの立ち上がり動作の課題特異性が相対的に高まっているために,歩行や立位バランスよりも立ち上がり動作に類似したパフォーマンスが関連するものと推察された.【理学療法学研究としての意義】訪問リハビリテーションを利用する在宅高齢者において,床からの立ち上がり動作は主要な基本動作に関連する一方で課題特異性の高い動作であるため,床からの立ち上がり動作の自立度を高めるために立ち上がりに特化した介入が必要である可能性を示唆した.

Journal

Details 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549522304
  • NII Article ID
    130004584621
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48100020.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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