円背予防を目的とした運動が体幹筋力に及ぼす影響についての検討

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抄録

【はじめに、目的】 円背は体幹・下肢筋の機能不全を呈し,疼痛の増悪や歩行の安定性が低下することにより易転倒性やADL低下に繋がるため,円背に関連する筋機能不全の改善を目的とした運動指導が重要とされる。我々は先行研究において,円背予防の運動として用いている腹臥位体幹伸展(以下:パピーポジション)が,即時的に立位脊柱アライメントおよび体幹可動性を改善することを報告した(第23回日本運動器科学会,2011)。今回このメカニズムを筋機能の観点から検討するため,健常高齢者を対象とした基礎的研究として,パピーポジションが等尺性体幹筋力に及ぼす影響について調査した。【方法】 対象は体幹,下肢に整形外科学的,神経学的疾患を有さない高齢女性10名(平均年齢74.2±5.7歳)である。計測前に脊柱後彎を評価する目的で,Milneらの報告を基に円背指数を計測した。計測方法は60cmの自在曲線定規(STAEDTLER社製)を使用し,立位にて第7頸椎(C7)から第4腰椎(L4)棘突起までの背部の彎曲を型取り,紙上にトレースした。C7からL4を結ぶ直線距離(L)と,彎曲頂点からLへの垂線の距離(H)を計測し,円背指数(H/L×100)を算出した。なお円背指数は高値であるほど円背が高度であることを示す。課題は足底接地での椅子座位(座位),腹臥位,パピーポジションの3肢位とし,いずれも保持時間を2分とした。また各課題の実施順はランダムとし,日を変えて実施した。課題の前後で等尺性体幹屈曲および伸展筋力(体幹筋力)を計測した。体幹筋力の計測は筋機能解析運動装置(CYBEX NORM,CYBEX社製)を使用し,計測肢位は足底接地,体幹中間位での立位とした。計測時間は5秒間とし,計測回数は屈曲,伸展のいずれも1回の練習後,本計測を2回実施し,ピークトルク値(トルク値)の平均値を採用した。検討項目は(1)課題前後における屈曲・伸展トルク値(Nm)の比較,(2)各課題におけるトルク値の変化率(%)の比較,(3)円背指数と,各課題におけるトルク値の変化率との関連の3項目とした。統計学的処理は(1)Wilcoxon符号付順位和検定,(2)Friedman検定,(3)Sperman順位相関係数を使用し,いずれも有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 研究に先立ち,全ての被験者に対し,1)研究内容,2)安全に十分に配慮して研究を実施すること,3)被験者の機密保持に関する事項等に関し,十分な説明を行い参加同意を得た。【結果】 対象の円背指数の平均は8.2±3.1(5.1~14.7)であり,著明な円背を認めなかった。(1)伸展トルク値はパピーポジションにおいてのみ,前:67.6±28.3,後:72.7±30.3と有意な増大(p=0.019)を認めた。屈曲トルク値はいずれも有意差を認めなかった。(2)伸展トルク値の変化率は,パピーポジション:108.9±9.3,座位:98.5±8.2であり,パピーポジションが有意に大きな変化を認めた(p=0.014)。屈曲トルク値は各課題に有意差を認めなかった。(3)円背指数と,各課題におけるトルク値の変化率に有意な相関は認めなかった。【考察】 今回の結果から,パピーポジションにより屈曲トルク値において有意な変化は認めなかったが,伸展トルク値において即時的に向上させる傾向を認めた。円背において脊柱後彎により頭部が前方に変位するため,体幹屈筋群では負荷の減少,筋緊張低下,筋短縮を呈するのに対し,体幹伸筋群では過負荷となり筋の過緊張や虚血,筋力低下を呈し,拮抗筋同士の機能不全を生じるとされる。パピーポジションを保持することにより,体幹屈筋群を伸張し,体幹伸筋群を弛緩すると推察する。筋の持続的伸張後に一時的な筋力低下を生じることが指摘されているが,パピーポジション前後での屈曲トルク値に差を認めなかったことから,体幹屈筋群に対する伸張は明らかな筋力低下を誘発する程度ではなかったと考える。体幹伸筋群では弛緩,虚血の改善により筋収縮が滑らかとなり,更に拮抗筋である体幹屈筋群が伸張されたことにより,筋力の増大に繋がったと考える。また今回の対象が健常者であり,著明な円背を認めなかったため,円背指数と各課題におけるトルク値の変化率との間に関連を認めなかったと考える。パピーポジションは円背により立位バランスが低下した者でも安全にかつ簡便に実施することが可能であり,本研究から体幹筋の機能不全を改善する可能性が示されたことから,中高齢者の姿勢維持に有用であると推察する。【理学療法学研究としての意義】 本研究はパピーポジションが円背姿勢の予防,改善に有効である可能性を示したもので,中高齢者の姿勢維持を目的とした運動指導の一助になるものと考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Cb0738-Cb0738, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549530624
  • NII論文ID
    130004693064
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.cb0738.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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