3次元体幹筋骨格モデルによる体幹前屈動作の脊柱屈曲モーメントおよび筋張力について

DOI
  • 畠山 和利
    秋田大学医学部附属病院 リハビリテーション科
  • 松永 俊樹
    秋田大学医学部附属病院 リハビリテーション科
  • 巖見 武裕
    秋田大学工学資源学部 機械工学科
  • 大高 稿兵
    日本光電
  • 佐藤 峰善
    秋田大学医学部附属病院 リハビリテーション科
  • 渡邉 基起
    秋田大学医学部附属病院 リハビリテーション科
  • 嘉川 貴之
    秋田大学大学院医学系研究科医学専攻機能展開医学系整形外科学講座
  • 宮腰 尚久
    秋田大学大学院医学系研究科医学専攻機能展開医学系整形外科学講座
  • 島田 洋一
    秋田大学大学院医学系研究科医学専攻機能展開医学系整形外科学講座

抄録

【はじめに,目的】 脊柱後弯変形は,椎間板腔の狭小化や椎体圧迫骨折などによる脊柱前方要素短縮の他に,体幹伸展筋群の関与が大きく,パフォーマンスやQOLに影響を与えると報告されている.しかし,体幹筋群は構成筋の数が多く体幹に広く分布していることから,症例毎に筋力低下の部位や代償的な過剰収縮部位が異なる.従って,実際の臨床場面では画一的な筋力増強ではなく,症例に応じた対応が求められる.動作時における筋力の実測はほぼ不可能だが,筋骨格モデルで算出できる.われわれは腹圧や脊柱可動性を考慮した新しい3次元体幹筋骨格モデルを作成し,静的立位時に発揮されている体幹筋力値を報告した.このモデルは,脊柱屈曲方向の回転力(屈曲モーメント)を算出できるため,動作中に発揮している筋張力を推定することが可能である.本研究では,この3次元体幹筋骨格モデルを使用し,体幹前屈動作で発生する脊柱屈曲モーメントおよび筋張力を検討した.【方法】 新しい3次元体幹筋骨格モデルは,腹直筋,内外腹斜筋,腰方形筋,大腰筋,棘間筋,横突間筋,回旋筋,多裂筋,腰腸肋筋,胸腸肋筋,胸最長筋,胸棘筋,胸半棘筋で構成されており,動作中のモーメントを算出するため加速度の情報も考慮されている.動作計測は,3次元動作解析装置VICON MX (VICON社製,Oxford,England)を使用し,直立姿勢から体幹を前屈していく動的状態を計測した.対象は健常成人8名(平均身長175.5 cm,平均体重67.5 kg)で,直径6mm,合計72個の反射マーカーを四肢と骨盤および脊柱に貼付した.C7からL5の棘突起は3個のマーカーを使用し,脊柱の動きを詳細に検討した.取得した各マーカーの位置座標データをわれわれが作成した筋骨格モデルへ入力し,直立位から前屈位に至る過程で1)直立位,2)軽度前屈位,3)前屈位の3肢位における脊柱屈曲モーメントおよび筋張力を算出した.軽度前屈位は,鉛直線に対する肩峰と大転子を結んだ線のなす角を30度とし,前屈位は同角度が60度とした.【倫理的配慮,説明と同意】 本研究は,世界医師会によるヘルシンキ宣言の趣旨に沿った医の倫理的配慮の下で実施した.被験者には実施前に説明し,十分に趣旨を理解して頂いた上で,書面にて同意を得た.【結果】 3次元筋骨格モデルから脊柱屈曲モーメントを算出できた.算出した屈曲モーメントは放物線を描き,3姿位共にほぼ脊柱の生理的弯曲に合致したカーブであった.最大屈曲モーメントは胸椎部で出現し,直立位で10.5 N/m/BW・Ht・10 -3と最も低く,体幹前屈角度が増加するに伴い増加し,軽度前屈位で15.6 N/m/BW・Ht・10 -3であった.前屈位では19.1 N/m/BW・Ht・10 -3と直立位の約2倍の屈曲モーメント値を示した.最大屈曲モーメントの発揮箇所は直立位で第8胸椎周囲,軽度前屈位で第9胸椎周囲,前屈位で第11胸椎周囲と遠位部へ変位した.腰椎レベルでは体幹前屈角度の変化に関わらず第5腰椎レベル周囲がピークであったが,直立位で4.0 N/m/BW・Ht・10 -3,軽度前屈位で5.1 N/m/BW・Ht・10 -3,前屈位で10.1 N/m/BW・Ht・10 -3と前屈角度の増加に伴い屈曲モーメントが増加した.腰腸肋筋,多裂筋など腰椎レベルの筋張力は直立位より前屈位で高値を示した.特に前屈に伴い腰方形筋が19.5Nから35.0Nと約2倍程度の変化を認めた.【考察】 ヒトの脊柱アライメントは様々な影響を受け,筋力が与える影響は大きいと考えられている.脊柱シミュレーションモデルを用いた先行研究で,われわれは脊柱伸展筋力を低下させると脊柱後弯が増強することを報告している.今回の検討では,前屈角度の増加に伴い最大屈曲モーメントの発揮箇所が下方へ変位し,モーメントおよび筋張力が増加していた.廃用性筋萎縮や筋疲労などで体幹伸展筋力が低下し後弯位を呈するようになると,姿勢維持に必要な体幹伸展筋の高位も変化する.その結果,新たにストレスの加わった高位にも廃用性筋萎縮や筋疲労が生じるようになり,徐々に広範な部位に後弯が進行するという悪循環を呈する可能性が示唆される.本筋骨格モデルは,症例毎の体幹筋力値が明確になるため,筋力増強の具体的目安や変形進行予防の介入にも期待できる. 【理学療法学研究としての意義】 高齢者の筋力低下による後弯変形は,脊柱屈曲モーメントが増強するため筋力増強など予防が必要となる.しかし基盤に廃用症候群が存在しているため,下肢の代償や手押し車など上肢の補助により脊柱屈曲モーメントを減少させること,長期的な筋力増強練習の継続が重要と考えられる.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Cb0736-Cb0736, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549531904
  • NII論文ID
    130004693062
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.cb0736.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ