大腿骨頚部骨折術後患者の歩行能力の予後予測

説明

【目的】 大腿骨頚部骨折術後患者の予後は一般的に個人差が大きく、歩行能力の決定要因は下肢の支持性やバランスなど様々な要素が含まれる。当院では、大腿骨頚部骨折術後患者の歩行予後を把握するために、術後第7、14、21病日に身体機能の評価を実施している。その結果より以前我々は、術後第7病日(以下7病日)の運動機能が早期に退院できる群を判別するための指標となりうることを報告した。今回、受傷前歩行能力が屋外自立レベルの患者について、術後歩行能力が速やかな回復を呈した群と、速やかな回復を認めなかった群に分け、7病日ごとの評価結果を比較、検討した。また、後者を退院時に歩行能力が回復した群と十分な回復が得られなかった群に分け、それぞれの傾向を探究した。その結果より、患者の歩行能力の予後予測に対し我々がこれまで行ってきた評価の有用性を検討した。【対象】 当院で大腿骨頚部骨折の手術を受けた患者のうち、受傷前に屋外独歩または杖歩行が自立していた43名(年齢74.5±9.2歳、女性32名、男性11名)を対象とした。手術内容は、人工骨頭置換術が25例、ハンソンピンが11例、γネイルが7例であった。【方法】 患者の分類は術後第21病日(以下、21病日)までに病棟内杖歩行が自立となったものをA群、自立できなかったものをB群とした。さらに、B群の中で退院時に屋外歩行可能レベルに達したものをB1群、屋内歩行レベルにとどまったものをB2群と分類した。測定は術後第7、14、21病日に実施。項目は、平行棒内往復可能回数・患肢荷重率・Functional Reach Test(以下FRT)・荷重時痛(Visual Analogue Scale:以下VAS)・意欲(Vitality Index:以下VI)、Timed“Up and Go”test(以下TUG)である。また年齢、歩行器歩行練習開始までの日数、在院日数も調査した。比較は、まずA群B群間で行い、さらにB群内での患者傾向をみるためにB1、B2群の経過をみた。患肢荷重率は(最大限の荷重)/(体重)×100より求め、FRTは患側上肢のリーチで測定した。平行棒内往復可能回数は、連続10往復を上限に監視下で歩行できた回数とした。【説明と同意】 本研究は当院倫理委員会の承認を得、対象者には研究の内容と目的を十分に説明し、同意を得た上で行った。【結果】 A群は30名(年齢:71.4±8.9歳、女性21名、男性9名)、B群は13名(年齢:81.7±5.3歳、女性11名、男性2名)で、年齢に有意差を認めた(p<0.0001)。A群は全例が屋外歩行自立レベルにて自宅退院し、平均在院日数は28.0±8.1日。これに対しB群の平均在院日数は41.6±12.2日と明らかな差を認めた(p<0.01)。A群B群間の測定項目の比較で、7病日にFRT(p<0.01)、平行棒内往復可能回数(p<0.01)、患肢荷重率 (p<0.05)の3項目に有意差を認めた。14、21病日では新たにTUGに有意差を認める(p<0.01)一方で、平行棒内往復可能回数と患肢荷重率に差が認められなくなった。その他の項目は7、14、21病日とも差を認めなかった。また7病日に有意差を認めた3項目のA群の値(FRT:21.0±8.4cm、平行棒内往復可能回数:8.7±2.8回、患肢荷重率:74.1±23.6%)とB群の21病日の値(FRT:20.2±7.2cm、平行棒内往復可能回数:8.8±3.0回、患肢荷重率:78.1±25.0%)が近似していた。次にB群を分類した結果、B1群は9名、B2群は4名であり、この2群間の比較においては、7、14、21病日とも、各項目に何らかの傾向はみられなかった。【考察】 今回、年齢および7病日の平行棒内往復可能回数、患肢荷重率、FRTの評価から、術後歩行能力が速やかに回復し受傷前と同等の活動レベルに到達できる群を判別することが可能であることと、その目安となる値が確認できた。加えて、14、21病日のTUGの結果も考慮することでより精度が増すことが伺えた。また、7病日に有意差を認めた3項目のA群の値とB群の21病日の値が近似していた。この解釈として、B群の退院時歩行能力にはばらつきがありA群と同様の予後を示さないことから、この値はあくまで7病日において有効なものであると考えられる。それと同時に、歩行能力が速やかな回復を示さない患者の予後予測をするにはこれまで行ってきたもののみでは不十分であり、別途評価項目を追加、検討する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】 大腿骨頚部骨折術後の歩行能力の予後予測を明確にする。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Cb0756-Cb0756, 2012

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549562240
  • NII論文ID
    130004693082
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.cb0756.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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