PTの臨床判断による転倒予測

  • 松田 徹
    千葉医療福祉専門学校 理学療法学科 筑波大学大学院人間総合科学研究科障害発達専攻
  • 井上 美幸
    千葉医療福祉専門学校 理学療法学科
  • 吉田 晋
    千葉県立保健医療大学健康科学部リハビリテーション学科理学療法学専攻
  • 村永 信吾
    医療法人鉄蕉会亀田メディカルセンターリハビリテーション事業管理部
  • 大嶋 幸一郎
    医療法人鉄蕉会亀田メディカルセンターリハビリテーション事業管理部
  • 川間 健之介
    筑波大学大学院人間総合科学研究科

書誌事項

タイトル別名
  • ─臨床経験の多いPTの転倒予測の視点と確かさの検討─

説明

【はじめに、目的】 Timed“ Up& Go”(以下TUG)Test、Functional Reach(以下FR)、Berg Balance Scale(以下BBS)などのスクリーニングテストを使用した転倒予測だけでなく、clinical judgment(以下、臨床判断)の有効性が看護領域で報告されている。本研究は、日常生活の中で転倒が多いとされる起立・歩行・方向転換・着座(TUG遂行時)の一連の動作観察のみから転倒予測を行い、臨床経験の多いPTの臨床判断による転倒予測を構成する視点を整理し、臨床経験の多いPTの臨床判断による転倒予測の確かさを明らかにすることを目的とする。【方法】 最初に高齢者の転倒予防に従事した経験をもつPT11名(平均臨床経験13.5年)を対象としたフォーカスグループインタビューを実施した。IC レコーダーの記録をもとに逐語録を作成し、TUG遂行時の転倒危険の高い高齢者に関する視点を抽出した。PT3名(平均臨床経験17.3年)で分類と抽象化を行い、全員の意見が一致するまで協議を繰り返し、解釈及び分析の妥当性を確認した。最終的にTUG遂行時の観察による転倒チェックリスト(以下、TUGチェックリスト)を作成した。TUGチェックリストはチェックリスト部分(10のカテゴリーと40のサブカテゴリーで構成)とVisual Analogue Scale(以下VAS)評価部分(転倒危険の程度を評価)で構成される。次にTUGチェックリストを使用した高齢者映像の転倒予測と客観的転倒予測の関係性を検討した。介護老人保健施設A の通所リハビリを利用する高齢者21名(平均81.0歳)を対象に、過去6ヶ月間の転倒歴の聴取、スクリーニングテストとTUG遂行場面の撮影を行い、各スクリーニングテストのカットオフ値と転倒歴より「転倒低・中・高リスク」と判定した。対象のTUG遂行時の映像を、TUGチェックリストを使用し6名のPT(平均臨床経験14.5年)が1名ずつ評価し、うち2名は1週後に再評価を行った。VAS評価とスクリーニングテストとの関連性は、VAS評価の平均値とTUG・FR・BBS結果においてSpearmanの順位相関係数を求め、VAS平均値を三分位に分類(転ぶ・微妙・転ばない)したものと、転倒リスク分類(低・中・高リスク)との関連はϕ係数を求めた。チェックリスト評価は、6人中5人のPTがチェックした項目を各症例の歩行特性と確定した。対象高齢者の過去6ヶ月間の転倒有無を従属変数、TUG・FR・BBS結果とTUGチェックリストの各項目を独立変数としたロジスティック回帰分析を行い、転倒経験に関するオッズ比を求めた。さらにロジスティック回帰分析の結果、転倒有りと有意な関連を認めた項目とTUG・FR・BBSの転倒予測指標としての感度、特異度、陽性反応的中度、陰性反応的中度、的中精度を求め比較した。いずれの統計学的解析もSPSS Ver.10.0 for Windowsを使用し、危険率は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 筑波大学大学院人間総合科学研究科研究倫理委員会の承認を得て実施した(記番号23-6)。【結果】 TUGチェックリスト評価の検者内・検者間信頼性が確認できた。VAS評価とスクリーニングテストの関連性は、TUG(rs = 0.81, p< 0.01)とBBS(rs =-0.74, p< 0.01)間で有意な関連を認め、VAS平均値の三分位分類と、転倒リスク分類に有意な関連(ϕ係数0.95, p< 0.01)を認めた。チェックリスト評価は、ロジスティック回帰分析の結果、転倒有りはTUGチェックリストの「着座動作に問題がある」のみと有意に関連し、オッズ比は26.0(95%信頼区間;1.89-367.60, p< 0.05)であった。さらに「着座動作に問題がある」とTUG・FR・BBSを転倒予測指標として比較した結果、「着座動作に問題がある」は感度80%、特異度88%、陽性反応的中度67%、陰性反応的中度93%、的中精度85%であり、特異度、陽性反応的中度、的中精度は他と比べ最も高い結果となった。【考察】 臨床経験の多いPTの臨床判断による転倒予測は確かであることが示唆された。またスクリーニングテストでは予測困難な高齢者でも、TUGの着座場面の観察から転倒危険を予測できる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 PT領域において、臨床判断による転倒予測の確かさや、転倒予測を構成する視点についての先行研究はない。今後は臨床経験年数による違いを検討する。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ge0069-Ge0069, 2012

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549609600
  • NII論文ID
    130004693746
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ge0069.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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