高校サッカー選手における股関節周囲筋のタイトネスと運動時腰痛発生との関連性
説明
【目的】<BR> 我々は、高校サッカー選手における運動時腰痛の軽減を目的にメディカルチェックと体幹筋トレーニング指導を行っている。先行研究において、Side Bridge test(以下、SB)の点数向上に伴い腰痛保有者が減少したことから、SBに反映される体幹筋機能と運動時腰痛との関連性を示唆した。しかし、体幹筋トレーニングを継続しSBの点数は向上したにも関わらず、運動時腰痛が残存した者も認められた。先行研究では、腰痛発生の要因に筋の柔軟性低下(以下、タイトネス)を挙げている。今回は股関節周囲筋のタイトネスに着目し、運動時腰痛との関連性について調査した。<BR>【方法】<BR> 某高校男子サッカー部員10名(身長171.1±5.3cm、体重59.8±5.2kg、右利き9名、左利き1名)を対象に、タイトネステストと股関節可動域テスト(以下、ROM)の測定と問診を実施した。タイトネステストは、1)指床間距離(以下、FFD)、2)下肢伸展挙上テスト(以下、SLR)、3)踵殿間距離(以下、HHD)、4)腸腰筋の4項目とした。腸腰筋の測定は、非測定脚の足関節底背屈0度、膝関節90度屈曲位の片膝立て位を開始肢位とし、測定脚の股関節最大伸展時の腓骨頭移動距離を下肢長で正規化した数値を用いた。ROMは、5)股関節屈曲、腹臥位にて6)股関節内旋と7)股関節外旋、8)両側の股関節最大外転時における内果間距離(以下、股関節外転)、股関節90度屈曲位における9)股関節水平内転と10)股関節水平外転の計6項目とした。股関節外転時の内果間距離も下肢長で正規化した数値を用いた。<BR> 運動時腰痛の定義として、日常生活に支障がなくスポーツ活動時に生じる痛みとした。腰痛のある者を腰痛群、腰痛の無い者を非腰痛群とし、両群間における各項目の比較を行った。統計には対応のないt検定を用い、有意水準は5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR> 四條畷学園大学倫理委員会の承認を受け、対象者には本研究の目的を説明し書面をもって同意を得た。<BR>【結果】<BR> 問診から腰痛群4名、非腰痛群6名であった。タイトネステスト(腰痛群/非腰痛群)は、1)FFD(cm)5.0±12.8 /8.4±10.8、2)SLR(deg.)利き脚65.0±10.8/72.5±12.5、非利き脚65.0±10.0/71.7±13.3、3)HHD(cm)利き脚側12.6±6.1/7.5±4.3、非利き脚10.5±4.6/8.5±4.3、4)腸腰筋(%)利き脚68.5±3.7/69.3±9.5、非利き脚67.9±5.5/69.6±10.1で、両群間に有意差は認められなかった。ROM(腰痛群/非腰痛群)は、5)股関節屈曲(deg.)利き脚118.8±4.8/125.0±10.5、非利き脚122.5±6.5/125.8±8.6、6)股関節内旋(deg.)利き脚38.8±6.3/41.7±6.8、非利き脚38.8±7.5/42.5±6.9、7)股関節外旋(deg.)利き脚52.5±8.7/54.2±10.7、非利き脚55.0±7.1/53.3±14.0、8)股関節外転(%)146.3±8.3/150.0±10.2、9)股関節水平内転(deg.)利き脚33.8±25/35.0±6.3、非利き脚37.5±2.9/42.5±7.6、10)股関節水平外転(deg.)利き脚57.5±6.5/60.0±5.5、非利き脚60.0±4.1/62.5±6.9で、両群間に有意差は認められなかった。<BR>【考察】<BR> 鳥居ら(1993)は、高校生男子スポーツ選手において腸腰筋、ハムストリングスのタイトネスを示す者にスポーツ傷害が多い傾向があると報告し、Chesworthら(1994)は、股関節回旋可動域制限と腰痛との関連性を報告している。今回の調査ではタイトネステスト、ROMともに腰痛群と非腰痛群において有意差を認めなかった。しかし、非腰痛群と比較すると腰痛群では股関節外旋を除く全ての項目で制限がみられる傾向にあり、諸家の先行研究とほぼ同様の結果を示した。よって、股関節周囲筋のタイトネスが運動時腰痛発生に与える影響について引き続き経時的に調査し、具体的なコンディショニング指導について検討する必要があると考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 近年、腰痛に対するコアトレーニングが多く報告されているが、体幹筋機能の客観的な評価や、腰痛改善との関連性についての報告は少ない。そこで、我々は体幹筋機能を客観的に評価し、運動時腰痛との関連性について経時的に調査することで運動時腰痛発生の要因を検討してきた。しかし、先行研究にて体幹筋機能向上を目的とした継続的なトレーニング指導では腰痛改善に至らなかった者も認められた。今回は、体幹筋機能以外の要因として股関節周囲筋のタイトネスに着目した第一報である。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2009 (0), C4P2186-C4P2186, 2010
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680549639296
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- NII論文ID
- 130004582450
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可