膝前十字靭帯損傷膝および再建膝におけるハムストリングのLombard’s Paradox現象に影響する因子の検討

説明

【目的】膝前十字靭帯(以下ACL)不全膝における膝関節安定性は膝関節固有感覚と膝周囲筋機能による代償が必要であり、主要な筋活動としてはハムストリングが挙げられる。ハムストリングは一般的に膝屈曲に作用するが、立ち上がり動作などの閉鎖運動連鎖では大腿直筋との同時収縮により膝伸展にも作用するとしたLombard’s Paradox現象(以下LP)が知られている。藤田ら(2009)は、ACL損傷膝において立ち上がり動作におけるハムストリングのLP出現角度と関節固有感覚に有意な相関を認めたことから、LPのような動作時の膝周囲筋の協調作用が関節固有感覚の影響を受けていると報告した。我々は、先行研究でACL損傷膝および再建膝においてLPの出現するタイミングが遅延し、健側と比較して患側のLPが有意に伸展位で確認されることを報告した。このハムストリングの筋収縮のタイミングの遅延は、ACL不全による膝関節固有感覚低下がACL-hamstring reflexを阻害したためと考察している。一方、ACL損傷および再建膝における関節固有感覚は年齢や受傷からの期間、術後期間などの影響を受けることが報告されており、本研究ではACL損傷膝および再建膝においてLPに影響する因子について検討することを目的とした。<BR>【方法】当院にてACL損傷と診断された55名(男性25名、女性30名、平均年齢23.1歳、受傷からの期間67.3週:以下、損傷群)およびACL再建術後5ヵ月以上フォローできた103名(男性46名、女性57名、平均年齢23.8歳、術後期間31.6週:以下、再建群)を対象とした。LPの測定方法は藤田ら(2009)の方法に準じ、40cmの台からの両脚の立ち上がり動作で、ハムストリングの硬結が触れた時点の膝関節屈曲角度を計測した。患側と健側の3試行の平均値と患健差を求めた。患者属性データは年齢、性別、半月板損傷の有無、受傷からの期間(損傷群)、術後期間(再建群)をカルテより収集した。統計的手法はKolmogorov-Smirnov検定でLPのデータの正規性を確認した後、損傷群と再建群における患側LPと健側LPの比較、性別および半月板損傷の有無による比較について対応のないt検定および二元配置分散分析を行った。また、LPと年齢、受傷からの期間、術後期間との相関分析を行った。いずれも有意水準は5%未満とした。<BR>【説明と同意】対象者には事前に本研究の主旨や測定内容、測定時に起こりうる危険等の説明を行い、参加の同意を得た。<BR>【結果】損傷群のLPは患側37.9±9.7°、健側46.1±9.7°で、再建群は患側44.4±10.7°、健側48.2±9.7°で二元配置分散分析にて交互作用を認めた(P<0.05)。下位検定の結果、健側LPは損傷群と再建群に有意差を認めなかったが、患側LPは再建群で有意に改善していた(P<0.001)。また両群ともに健側LPより患側LPのほうが有意に伸展位だった(P<0.001)。半月板損傷の有無による比較では損傷群、再建群ともにLPの患側、健側、患健差で有意差を認めなかった。性別では損傷群の患側LP、再建群の患側と健側LPで有意差を認め(P<0.05)、女性のほうがLP出現角度が伸展位となっていたが、LP患健差は損傷群、再建群ともに男女に有意差はなかった。相関分析では損傷群ではいずれも有意な相関を認めなかったが、再建群のLP患健差と年齢(r=-0.251、P<0.01)および術後期間(r=0.224、P<0.05)で有意な相関を認め、年齢が高いほど患健差が大きく、術後期間が長いほど患健差が少ない傾向だった。<BR>【考察】Roberts et al.(2004)はACL損傷膝において年齢、軟骨損傷が関節固有感覚と関係するが、性別、半月板損傷の有無は関係がなかったとした。またZhou et al.(2008)はACL再建膝の関節固有感覚と性別に関係がなかったとしており、今回のLPとの関係はこれらの報告と類似した。今回の結果から半月板損傷の有無はLPに影響しないことが示唆され、また再建膝においてL年齢および術後期間がLP患健差と関係した。性別はLP患健差への影響を認めなかったが、健側患側ともに男性より女性のほうが有意にLP出現角度が伸展位となっており、膝周囲筋の協調作用に性差があることが示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】既存の膝関節固有感覚評価法は簡便でないため臨床現場で一般化していないが、LPの評価はACL不全患者の膝関節固有感覚低下の程度を表すことが示唆され、より簡便な評価法として利用できる可能性がある。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), C4P2180-C4P2180, 2010

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549641984
  • NII論文ID
    130004582444
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.c4p2180.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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