変形性股関節症が及ぼす膝関節アライメントの検証(第2報)

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  • 単純X線画像を用いて

抄録

【目的】<BR>変形性股関節症(以下股OA)に対し理学療法を行う際、同時に膝関節の疼痛を訴える患者を度々経験する。当院に人工股関節全置換術(以下THA)目的で来院される股OA患者の膝関節のX線画像をKellgren&Lawrenceの分類に準ずると、膝関節痛を訴えない患者を含めてもほぼ全症例が膝関節裂隙の狭小化を認め変形性膝関節症(以下膝OA)の予備軍であるといえる。股関節に起因する膝OAを呈する症例は1974年Smillieが提唱したcoxitis kneeと呼ばれ、その病態に対して脚長差による影響や、股OAの反対側膝に痛みを訴える症例が多いなどという報告は散在しているものの、そのメカニズムについては不明な点が多い。脚長差以外の要因と膝関節との関連について、特に骨盤傾斜などとの関連を示す研究報告は少なく、未だ統一の見解をみていない。骨盤傾斜を調査することは静的立位はもちろん、歩行などの動的場面での膝関節への荷重のメカニズムを明らかにするには不可欠な情報であると考える。我々の先行研究では脚長差の増大に伴い股OA側の膝関節が外反を示す傾向はみられたが、骨盤傾斜などとの関係を明らかにすることはできなかった。そこで今回は対象症例を増やし股OAにおける膝関節アライメントの影響について再検証することを目的とした。<BR>【方法】<BR>対象はTHA目的で当院入院した末期変形性股関節症のうち、一側性の変形で過去に手術歴のない患者100名全女性とした。平均年齢は64±9歳。また著しい脚長差のためX線撮影時に補高により脚長差を補正した患者は対象外とした。立位時の全下肢の正面からの単純X線像を基に、(1)脚長差(健側SMDから患側SMDを減じた値)、(2)左右膝外側角(以下FTA)、(3)左右脛骨傾斜(床面に対する脛骨の長軸が成す角)、(4)前額面上の骨盤傾斜(左右の上前腸骨棘を結ぶ直線と床面に平行な線とが成す角)を測定した。なお左右のFTAと脛骨傾斜は患側と健側に分けて各パラメーター同士を比較検討した。統計解析はPearsonの積率相関係数を用いて危険率は5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR>ヘルシンキ条約に基づく当院倫理規定に準じ調査した。<BR>【結果】<BR>骨盤傾斜と脚長差に有意な負の相関(p<0.01 相関係数r=-0.87)、骨盤傾斜と患側FTAに有意な正の相関(p<0.05、r=0.21)、脚長差と患側FTAに有意な負の相関(p<0.01、r=-0.24)、患側FTAと患側脛骨傾斜に有意な負の相関(p<0.01、r=-0.8) を認めた。一方、骨盤傾斜及び脚長差と健側FTAや脛骨傾斜との相関は認められなかった。<BR>【考察】<BR>患側への骨盤傾斜の増大とともに患側の膝関節は外反傾向を示した。またその膝関節の外反傾向に伴い、脚長差も増大がみられた。さらに患側の膝関節の外反傾向に伴い同側の脛骨は内側に傾斜する傾向を示した。このように今回の結果により股OAにおける骨盤傾斜と患側膝関節の外反傾向の関連性が明らかになった。股OAの多くはその病態の進行によって大腿骨頭が外上方へ偏位し骨頭被覆率の低下がみられるが、その骨頭被覆率を補償する方略の一つとして、患側膝関節を外反位にすることで脛骨を内側傾斜させ、骨盤傾斜をつくり出した可能性が示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>今回の研究で股OAにおける患側の膝関節への影響が示唆されたが、これまでの我々の調査の過程でcoxitis kneeの様々な変形パターンも確認できている。これらは患側内反型、患側外反型、健側内反型、健側外反型、両側内反型、両側外反型、windswept型などに分類できると思われ、中でも患側外反型や両側外反型の割合が比較的多い傾向がみられている。今回の結果はその一つのパターンを反映したものと考える。それぞれの特徴や発生要因などについては更なる詳細な調査が必要であり、今後は股OAの健側の膝関節への影響を調査すると共に、以上のような様々な変形パターンについても引き続き検証を行っていきたい。このようなcoxitis kneeのメカニズムを追求することは理学療法のアプローチが局所だけになされるのではなく、障害を全身から捉えることの重要性を示しているものと考えられ、これにより二次的な疼痛の予防・軽減へ向けたアプローチへの一助となると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), C4P1156-C4P1156, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549673088
  • NII論文ID
    130004582408
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.c4p1156.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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