腰部脊柱管狭窄症に対する当院運動療法の有効性
抄録
【目的】腰部脊柱管狭窄症の運動療法は未だ確立されていない。林らは、馬尾性間欠性跛行を有する70歳代の症例に対し、股関節ならびに腰椎の拘縮改善を目的とする運動療法を行い良好な成績を報告している。そこで今回我々は、より高齢な症例における効果について検証した。<BR>【方法】平成20年11月から平成21年10月の間、当院において間欠性跛行を呈し、運動療法を希望した腰部脊柱管狭窄症18例(男性10例、女性8例)を対象とした。平均年齢は79.7±5.8歳(70代9名、80代7名、90代2名)であった。股関節・腰椎の拘縮改善による疼痛軽減、歩行改善を目的に当院でプログラムを作成し、運動療法を行った。運動療法の内容は、ROM訓練、ストレッチング、リラクゼーションを中心とし、入院患者に対しては月曜日から金曜日の週5日間毎日、外来患者には週に2~3回とセルフエクササイズを指導した。運動療法はおおむね3ヶ月を目安に行った。股関節の拘縮の指標はThomasテスト、Oberテストで評価し、腰椎の拘縮の指標は林らの考案した腰椎後弯可動性テスト(Posterior Lumbar Flexibility test:以下PLFテスト)で評価した。この他、疼痛軽減、歩行改善の指標として運動療法開始前・1ヶ月後・2ヶ月後・3ヶ月後のVAS、連続歩行時間、連続歩行距離、10m歩行速度、30m歩行速度、症状出現時間について測定した。<BR>【説明と同意】運動療法開始前に研究の趣旨を説明し、同意が得られた症例に対し運動療法を実施した。<BR>【結果】運動療法開始前と後(終了時または退院時)では、VASは平均52±32mmから38±28mm、連続歩行時間は5分29±3分13秒から8分2±5分34秒、連続歩行距離は264±250mから415±344m、症状出現時間は38±1分3秒から2分45±3分11秒、10M歩行速度は15.0±7.1秒から13.4±7.0秒、30m歩行速度は43.5±19.8秒から34.6±17.3秒、PLFテストは124±14°から140±12°となった。上記の通り、運動療法施行の結果は一定の良好な結果が得られた。またPLFテストは18例中4例陰性化、Thomasテストは15例中3例陰性化、Oberテストは15例中4例陰性化し、それらいずれか陰性の5例は、特に良好な結果であった(3例は間欠性跛行そのものが消失)。外来群と入院群での結果に大きな違いは認められなかった。<BR>【考察】腰部脊柱管狭窄症18例においておおむね、疼痛軽減、歩行改善と良好な結果が得られたが、林らの結果に比べると歩行改善の幅が少なかった。我々の結果では、股関節・腰椎の拘縮の指標とされる3つのテストの陰性化が少なかった。これは高齢で関節拘縮が進行していたためと考えられ、この関節拘縮の進行が林らに比べ歩行改善の幅を狭めたと考えられる。しかし、本運動療法でPLFテストは平均15゜増大しており、腰椎前屈可動域の増大は得られたといえる。そのことにより、立位・歩行時の骨盤前傾トルクが軽減され、神経・軟部組織の圧迫軽減、筋血流増大に関与し、疼痛軽減、歩行改善が得られたと考えた。<BR>【理学療法学研究としての意義】腰椎前屈可動域増大を目的とする運動療法は、より高齢な症例に対しても有効である可能性が示唆された。今後はさらに症例数を増やし、どのような症例に有効であるかを詳しく明らかにしていくとともに、長期経過、QOLなどについても検討していく必要がある。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2009 (0), C4P1151-C4P1151, 2010
公益社団法人 日本理学療法士協会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680549675776
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- NII論文ID
- 130004582403
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可