頚椎性神経根症患者に対する複合的アプローチによる介入の一例

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抄録

【目的】<BR> 頚椎性神経根症は中年以降に発症し、年間10000人のうち83名が経験する疾患である。臨床症状および所見は、表在感覚低下、運動機能不全、頚部痛、肩、肩甲骨内側、上肢への深く放散する疼痛である。<BR> 頚椎性神経根症患者への保存療法の効果を検討した研究において、80%が改善を示し、1~2年後の追跡調査においても71%が良好な予後であることが示されている。さらに近年の保存療法における研究では、神経モビライゼーション、関節モビライゼーション/マニピュレーションなどのマニュアルセラピーと頸椎牽引、深部頸部屈筋と肩甲骨周囲筋エクササイズを含む複合的アプローチによって91%が臨床的意義のある改善が可能であることを示している。これらの研究は、頚椎性神経根症に対する保存療法の効果を示したものであり、複合的アプローチにより適切に改善できることを示唆している。<BR> この症例報告の目的は、理論的評価から病態を考え、その病態に基づき選択したマニュアルセラピーを含む複合的アプローチが有効であると考えられた頚椎性神経根障害患者について報告することである。さらに、過去の文献から頚椎性神経根障害患者における理学療法の役割、マニュアルセラピーの位置づけを考察することである。<BR><BR>【方法】<BR> 対象は54歳男性、趣味であるテニスのプレー中に左上肢のしびれと疼痛が出現した患者である。当院整形外科において、頚椎性神経根症の診断を受け頚椎牽引が処方されたが、症状の改善が認められないため複合的アプローチに変更された。<BR> 治療ゴールとして日常生活における疼痛改善とテニス競技復帰を設定し、週2回の外来通院治療を開始した。治療として姿勢指導、関節・筋筋膜マニュピュレーション、エクササイズをおこなった。<BR> 効果判定は治療開始時と終了時において、主観的評価としてNeck Disability Index(NDI)と疼痛評価(Numerical rating scale-NRS)、客観的評価として頚椎自動運動検査(CROM装置)、神経血管検査、筋機能検査、分節他動運動検査を比較した。なお治療2回ごとにNRSと頚椎自動運動の変化を測定した。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 療法士によって研究内容と目的について説明され、「検査結果・治療経過使用に関する同意書」へ署名と捺印を療法士と患者共に行い、それぞれ1部ずつ保管した。なお本報告はヘルシンキ宣言を順守し実施した。<BR><BR>【結果】<BR> 治療は約5週間、計10回行われた。結果として、NDIは減点3から0へ改善した。NRSは安静時疼痛が4/10から0/10、動作時疼痛は5~7/10から0~2/10と改善した。頚椎自動運動検査では屈曲は40°から60°、左側屈は18°から34°、左回旋は58°から67°と増加が認められた。神経血管検査として表在感覚検査でC5-6レベル鈍麻、左腕橈骨筋反射減弱、左手関節伸展筋力低下、左スパーリングテスト陽性であったが、C6表在感覚鈍麻以外はすべて正常となった。分節他動運動検査では、後頭下の前屈および右側屈と環軸椎左回旋、C2-4右上方下方滑り、C7-T1間のすべて方向、T1-2左回旋についてグレード2の制限が認められたが、C7-T1間を除きグレード3に改善した。<BR> 予定した治療ゴールに達したため、患者と合意の上、治療を終了した。<BR><BR>【考察】<BR> 頚椎左側屈、左回旋、顎後退、後屈で疼痛が誘発されたことは、先行研究より左頚椎椎間孔で神経根に影響を及ぼしていることを示唆している。さらに、その原因として、過用、誤用による炎症、不良姿勢による過可動性、分節運動制限による代償、骨棘形成が考えられた。特に後頭下、右中部頚椎、上部胸椎の可動性制限が代償的に左C4-5、左C5-6間の過可動性を起こし、症状の原因となったと推測した。<BR> Clelandらによる頚椎性神経根患者の短期的予後の予測因子から、本症例の見込まれた治療成功率は28日後で85%であった。治療介入の結果、本症例は5週間で良好な結果が得られた。よって理論的評価に基づいた複合的アプローチは適切に頚椎性神経根患者を治療することが可能であると考えられた。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 頚椎治療における保存療法は牽引治療が一般的であるが、Youngらが示すように牽引の治療効果について十分明らかにされていない。しかし適切に評価し、所見に対応した複合的アプローチを行うことによって、見込まれる治療効果を予測し、主観および客観的所見を改善することが可能であることが示唆された。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), C4P1148-C4P1148, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549685504
  • NII論文ID
    130004582400
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.c4p1148.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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