若年者と高齢者における遊脚相の足関節角度の相違

DOI
  • 中島 三智世
    森の里病院 医療技術部 国際医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科
  • 丸山 仁司
    国際医療福祉大学 保健医療学部 理学療法学科
  • 菅沼 一男
    帝京科学大学 医療科学部 東京理学療法学科

抄録

【はじめに、目的】 転倒は,歩行中のつまずきが原因で起こることが多いとされている.つまずきに関する研究は,足部クリアランスに着目した研究がなされている.しかし,歩行中の足関節角度について遊脚相を分けて検討した研究はなされていない.本研究は,若年者および高齢者の転倒の有無と足関節角度の関連について検討することを目的とした.【方法】 対象は,若年者10名(男性3名,女性7名),高齢者16名(男性2名,女性14名)であった.若年者(以下,若年群)は年齢24.0±2.9歳,身長161.4±5.2cm,体重58.4±8.1kgであった.高齢者は過去一年間の転倒の有無により非転倒群と転倒群に分けた.非転倒群は年齢75.1±5.0歳,身長147.1±4.4cm,体重49.6±7.7kg,転倒群は年齢76.0±4.5歳,身長153.5±9.5cm,体重50.9±6.9kgであった.なお,高齢者は,整形外科的疾患のない独歩可能な者とし,非転倒群と転倒群の属性に差はなかった(P>0.01).対象者は,あらかじめ定めた部位に指標となるマーカーを両面テープで貼り付けた.指標は腓骨頭,第5中足骨遠位端,腓骨頭と第5中足骨遠位端が垂直に交わる点と,第1中足骨遠位端とした.マーカーは,直径1cmの球状発泡スチロールの球面に反射シールを貼り付け使用した.測定路は,床面に10mのビニールテープを貼り,さらにスタート地点とゴール地点にビニールテープを貼った.測定はスタートの合図とともに歩行を開始し10mを快適速度で歩行した.ビデオカメラの設置位置は,4m地点から6m地点までの範囲が撮影出来るように直線路の5m地点に高さ18cmの三脚を固定し,足関節および下腿部を撮影した.撮影は裸足とし,左右の測定を行うために往復の撮影を行った.撮影した画像はダートフィッシュ(DARTFISH社 DARTFISH TeamPro 5.5)を用いて,歩行時遊脚相を三相に分け,それぞれ足関節最大角度を計測した.遊脚相は,ペリーのランチョ・ロス・アミーゴ方式に基づきInitial Swing(以下,IS),Mid Swing(以下,MS),Terminal Swing(以下,TS)の三相に分けた.統計学的手法は,検定に先立って,各変数が正規分布に従うかをShapiro-Wilk検定で確認した.各群の群内比較および各相の群間比較について,一元配置分析を行い,主効果が認められた場合は,post-hoc検定としてTukey法を用いた.すべての検定における有意水準はP<0.01とした.また,統計解析はSPSS 14.0J for windowsを用いた.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者は本研究の目的・内容を十分に説明し,参加の意思を示した者とした.研究開始にあたり国際医療福祉大学倫理委員会の承認(承認番号11-54)を得て実施した.【結果】 若年群は,ISが110.1±6.1°,MSが93.0±2.9°,TSが90.4±2.7°,非転倒群はISが92.5±4.2°,MSが85.2±2.9°,TSが89.9±3.2°,転倒群はISが88.2±6.5°,MSが87.2±2.5°,TSが91.3±4.2であった.一元配置分散分析の結果,各群の群内比較および各相の群間比較において主効果が認められた.Tukey法の結果,ISは若年群と非転倒群,若年群と転倒群に差が認められた.MSは,若年群と非転倒群,若年群と転倒群において差が認められた.TSは,すべての群間で差が認められなかった.群内比較は,若年群はISとMS,ISとTSにおいて差が認められた.非転倒群は,ISとMS,MSとTSにおいて差が認められた.転倒群は,IS・MS・TSすべての相で差がみられなかった.【考察】 若年群,転倒群,非転倒群について遊脚相の足関節角度について比較検討した.各群の遊脚相における足関節角度の変化は若年群,非転倒群が足関節角度に変化がみられたが,転倒群は差がみられなかった.正常歩行で足関節は立脚相終了直後より,底屈位から急速に背屈位へと変化する.その後,MSでは背屈位を保ちながら,TSから立脚相へ向けて更に背屈位となる.本研究の結果は,若年群,非転倒群が正常歩行の報告とほぼ一致した結果となった.一方で,転倒群は遊脚相の各期における足関節角度に変化が見られなかった.このことはつまずきの原因とも考えられる.若年群,転倒群,非転倒群の各群間比較において,IS,MSともに若年群と非転倒群,若年群と転倒群との間に差が認められたが,TSでは各群間に差がみられなかった.従って,遊脚相IS,MSは,若年群が大きく角度変化をおこすのに対し,高齢者は変化が少なく転倒群で著明であった.このことはつまずきが遊脚相の初期に生じることから理解できる.よって,転倒予防には足関節遊脚相初期の関節の動きをコントロールすることが重要であることを示唆している.【理学療法学研究としての意義】 転倒群は,歩行周期の遊脚相において足関節角度に大きな変化がみられなかった.高齢者において転倒の原因となる足関節の底背屈運動の減少がみられたことから,理学療法士は高齢者に対する足関節の運動を積極的に行う必要性が示唆された.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ab0418-Ab0418, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549725824
  • NII論文ID
    130004692362
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ab0418.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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