3種類のギャッジアップ角度における胸腰椎彎曲角度の比較
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説明
【目的】高齢者腰椎圧迫骨折患者、とくに楔状変形を来たした患者では日常生活において体幹の屈曲を制限することが重要である。臨床上、ギャッジアップ角度増加とともに脊椎の屈曲が生じ、その結果疼痛が増悪することが多い。またギャッジアップ時に疼痛が見られるが、座位時には疼痛が減少する症例も経験する。しかし、ギャッジアップ時や座位時に、胸椎、腰椎がどの程度屈曲するのか、実際に検討した報告は見当たらない。そこで、本研究では、脊椎圧迫骨折患者に対して疼痛の少ない離床方法を検討するため、ギャッジアップ時と座位時の胸腰椎角度を調べることを目的とした。<BR>【方法】対象は、骨関節疾患のない健常成人10名(男性3名 女性7名 平均年齢26.1±4.2 身長164.5cm±6.15 体重 57.2kg±9.06)とした。脊柱計測分析器Spinal Mouse(Index社製)を用い、ギャッジアップ0°、30°、60°、脱力座位姿勢、直立座位姿勢における胸椎彎曲角度、腰椎彎曲角度を測定した。また、膝関節屈曲角度は30°とした。胸椎と腰椎の角度は、後彎を正、前彎を負とした。各条件間における胸椎彎曲角度と腰椎彎曲角度の違いをWilcoxonの符号順位和検定を使用し検討した。<BR>【説明と同意】全対象者に、本研究の趣旨を紙面にて説明し文書にて同意を得た。<BR>【結果】各条件における胸腰椎角度は、それぞれギャッジアップ0°(胸椎彎曲角度25.5±5.9° 腰椎彎曲角度-14.3±5.6°)、ギャッジアップ30°(胸椎彎曲角度32.5±7.1° 腰椎彎曲角度1.9±6.4°)、ギャッジアップ60°(胸椎彎曲角度34.6±4.9° 腰椎彎曲角度17.9±7.8°)、脱力座位姿勢 (胸椎彎曲角度38.3±8.4° 腰椎彎曲角度17.3±6.0°)、直立座位姿勢 (胸椎彎曲角度34.4±8.6° 腰椎彎曲角度-16.1±9.4°)であった。ギャッジアップ60°、脱力座位姿勢の胸椎彎曲角度は、ギャッジアップ0°、30°、直立座位と比べて有意に後彎していた。ギャッジアップ0°と直立座位時の腰椎彎曲角度は、ギャッジアップ30°、60°、脱力座位姿勢と比べて有意に前彎していた。またギャッジアップ30°の腰椎彎曲角度は、ギャッジアップ60°および脱力座位と比べて有意に前彎していた。<BR>【考察】腰椎は、ギャッジアップ0°では前彎位、ギャッジアップ30°でほぼ中間位、ギャッジアップ60°で後弯位にあり、各角度で腰椎彎曲角度に有意な差が見られた。またギャッジアップ角度は胸椎彎曲角度にそれほど影響を与えなかった。ギャッジアップ30°以上のギャッジアップ角度によって腰椎は後彎位となるため、脊椎への前方負荷が増強し疼痛の増悪や今後の椎体圧潰変形への危険が高まると考えられた。ギャッジアップの増加にともなう腰椎の後彎化には、上部体幹の重みによる前方屈曲モーメントの増加および股関節屈曲角度の増加にともなう大腿後面の筋群の伸張が影響していると推察された。脱力座位姿勢時の腰椎の彎曲は後彎位にあり、ギャッジアップ60°と有意な差は無かった。また直立座位の腰椎の彎曲は前彎位にあり、ギャッジアップ0°と優位な差は無かった。そのため、離床の際には、脊椎アライメントの観点から考えると、ギャッジアップ30°以上のギャッジアップ角度をとるより、直立座位姿勢を取る方が適している可能性があることが考えられた。<BR>【理学療法学研究としての意義】ギャッジアップ角度にともなう脊椎アライメントに関する報告は少なく、その評価には未だ臨床的な経験に頼っている部分が多い。本研究により、30°以上のギャッジアップ角度では腰椎は後彎位となり、腰椎圧迫骨折患者の腰背部痛を増強する原因になる可能性があること、また直立座位姿勢はギャッジアップ0°と同様に腰椎は前彎位にあり、脊椎アライメントの観点からすれば疼痛の増悪に与える影響は少ないことが示された。これらの結果は、腰椎圧迫骨折患者の離床期におけるリハビリテーションアプローチに寄与すると考える。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2010 (0), AbPI1015-AbPI1015, 2011
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680549737216
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- NII論文ID
- 130005016430
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可