脳卒中片麻痺患者における起き上がり動作可能群と不可能群の身体機能の比較

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  • ノウソッチュウ ヘンマヒ カンジャ ニ オケル オキアガリ ドウサ カノウグン ト フカノウグン ノ シンタイ キノウ ノ ヒカク

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抄録

【目的】起き上がり動作は日常生活において必要不可欠な動作であり,起き上がり動作に影響を及ぼす要因を把握することは,理学療法治療プログラムの立案に重要であろう.脳卒中片麻痺(片麻痺)患者の起き上がり動作に関する報告は,立ち上がりや歩行などの基本動作と比較すると少ない.また,起き上がり動作の可否に影響を及ぼす要因を検討した研究は,我々が調べ得た範囲では見当たらない.そこで本研究では,片麻痺患者を対象に起き上がり動作を評価し可能群と不可能群に分け,起き上がり動作の可否と身体機能の比較を行い,起き上がり動作が自力で行える要因を把握することを目的とした.<BR>【方法】病院および老人保健施設で加療・療養中の片麻痺患者46名(男性25名,女性21名,右片麻痺25名,左片麻痺21名)を対象とした.平均年齢は71歳,発症からの期間は17日から5507日であった.評価は,背臥位から端坐位までの起き上がり動作を2回実施し,開始の合図は検者の口頭指示で行い,終了は安定した端坐位(静止姿勢)になった状態とした.補助具や介助を要さずに起き上がれる群を「起き上がり可能群」とし,同様の条件で起き上がることが不可能であった群を「起き上がり不可能群」とした.身体機能の評価は,麻痺側の上下肢機能はBrunnstrom stage(Br.stage),非麻痺側の上下肢機能は握力と大腿四頭筋筋力,体幹機能はTrunk control test(TCT)を用いて評価した.非麻痺側の握力の測定は握力計を用い,坐位・肘関節伸展位にて2回測定し,最大値を採用した.非麻痺側の大腿四頭筋筋力の計測はハンドヘルドダイナモメーターを用い,端座位保持が可能な被検者はプラットホーム上にて膝関節90度屈曲位をとり,下腿と下腿後面の支柱をベルトで固定し測定肢の内外果上にセンサーを当て最大等尺性収縮筋力を測定した(ベルト固定法).端座位保持が不可能な被検者は,徳久らが報告した「H固定法」に従い最大等尺性収縮筋力を測定した(徳久ら,2007).ベルト固定法,H固定法ともに2回測定し,その最大値を体重比百分率(%)に換算した.統計学的処理は,起き上がり動作の可否別に各身体機能(握力,大腿四頭筋筋力,上下肢のBr.stage,TCT)を,Mann-WhitneyのU検定を用いて比較した.さらに,起き上がり動作の可否に影響を与える要因の抽出は,単変量解析により有意差を認めた項目を独立変数,起き上がり動作を従属変数としてステップワイズ法による判別分析を行った.なお,統計解析にはSPSS Japan製PASW18を用い,有意水準は5%とした.<BR>【説明と同意】被検者には研究の内容と方法について十分に説明し,同意を得た後研究を開始した.また,個人情報保護の遵守を伝え,管理は厳重に行った.<BR>【結果】起き上がり可能群は29名,起き上がり不可能群は17名であった.起き上がり動作の可否別に比較した結果,握力,大腿四頭筋筋力,Br.stage上肢,Br.stage下肢,TCTのすべての項目において有意差が認められた.さらに,起き上がり動作可能群と不可能群の判別分析を行った結果,各項目の判別関数係数は大きい順に,TCT(0.906),握力(0.624),Br.stage下肢(0.586),Br.stage上肢(0.402),大腿四頭筋筋力(0.372)であった.線形判別関数に実測値をあてはめて,起き上がり動作の可否を判別できるかを算出した結果,起き上がり動作が可能であった29名のうち可能と予測したのは27名(正答率は93.1%)であり,残りの2名(誤判別率6.9%)は不可能と予想された.また,起き上がり動作が不可能な17名のうち不可能と予測したのは13名(正答率76.5%)であり,残りの4名(誤判別率23.5%)は可能という判定となった.<BR>【考察】片麻痺患者の起き上がり動作には,影響が強い順に体幹機能,非麻痺側上肢機能,麻痺側下肢機能,麻痺側上肢機能,非麻痺側下肢機能が重要であることが示唆された.すなわち,非麻痺側の握力および大腿四頭筋筋力が強く,麻痺側機能が高く,体幹機能が高い者ほど,起き上がり動作が自立していることが示された.ただし判別分析の結果から動作への影響の強さを判断すると,体幹機能が四肢機能より影響を及ぼすという結果であった.このことから起き上がり動作を獲得するためには,従来から行われている四肢機能に対する理学療法の他に,体幹機能の向上を意識したアプローチの重要性が示唆された.今後は,体幹機能の効果的な向上を目的とした理学療法介入とはどのような方法か,さらに,体幹機能を高めることが起き上がり動作の自立へつながるのか否かなどの縦断的な検討を行うことが必要である.<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究は,基本動作の中でも客観的分析が十分に行われていない起き上がり動作について検討を行い,効果的な治療プログラムの指標を示した点で臨床的意義が高い.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), BbPI2126-BbPI2126, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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