転倒恐怖感がある脳卒中片麻痺患者に対する体重免荷トレッドミル歩行練習により独歩につながった一症例
説明
【目的】<BR> 近年、歩行障害を有する脳卒中片麻痺患者に対する歩行練習として取り入れられている体重免荷トレッドミル歩行(BWSTT)では、歩行パターンにおける左右差が減少し、上半身に装着したハーネスにより転倒への恐怖心を取り除いた状態での歩行が可能となる。また、BWSTTは、体重を部分免荷した状態で快適速度よりも速いスピードで実施できる。従来トレッドミル歩行時、スピードを上げることが歩行速度の改善に有効であるという報告が多い。<BR> 今回、恐怖心がある監視歩行レベルの患者に対し最大スピード下でBWSTTを導入することにより短期間で独歩につなげることができたので報告する。<BR><BR>【方法】<BR> 症例は、60歳、男性。平成22年1月左被殻出血にて当院入院。2病日目より理学療法開始。13病日目に当院回復期リハ病棟へ転院。<BR> <回復期病棟転棟時評価>Brunnstrom stage(BRS)は、右上肢2下肢3。感覚は、表在・深部ともに中等度鈍麻。高次脳機能については、注意障害がみられた。座位保持は、体幹筋低緊張・骨盤後傾位で非麻痺側に荷重されており、監視レベル。寝返り、起き上がりなどの基本動作は、軽介助レベル。移乗動作は、中等度介助レベル。FIM38点(運動項目24点、認知項目14点)であった。 <BR> 上記症例に対し、BWSTTを毎日10分間実施した。免荷量は、体重の25%とし、歩行速度は、その時点での最大歩行速度とした。身体機能としては、Belg Blance Scale(BBS)、Functional Independent Measure(FIM)運動項目、BWSTT前後での静止立位時の麻痺側荷重率及び10m快適歩行スピード(時間と歩数)を計測した。転倒恐怖感に対しては、BWSTT前後でのFES(転倒自己効力感)を評価した。<BR> <BR>【説明と同意】<BR> 発表に先立ち対象に本研究の趣旨を説明し、文書にて同意を得た。<BR><BR>【結果】<BR> <経過>25病日目:AFO装着し、杖歩行5m介助歩行。麻痺側下肢の振り出し不十分。振り出し時に体幹後傾。起き上がり、立ち上がり、立位は、物的支持にて可能となった。56病日目:AFO装着し、監視歩行。79病日目:BWSTT開始。BRSは、右上肢5下肢4。感覚は、表在・深部ともに軽度鈍麻となった。トレッドミル速度1.5km/h、裸足杖自立歩行、裸足杖なし監視歩行。遊脚初期につま先が引っかかるという異常が見られた。また、転倒への恐怖心が強かった。89病日目:BRS及び感覚は、79病日目と著変なし。BWSTT時、トレッドミル速度2.5km/h、屋外独歩可能となった。<BR> <評価>開始日:BWSTT前評価-FIM運動項目77点、BBS41点、静止立位時の麻痺側荷重率 20.3%、10m歩行における所要時間17.0秒、歩数27.7歩、FES22点。BWSTT後評価-FIM運動項目77点、BBS41点、静止立位時の麻痺側荷重率35.9%、10m歩行における所要時間15.6秒、歩数26.7歩、FES26点。<BR> 10日目(屋外独歩到達時点):BWSTT前評価-FIM運動項目90点、BBS52点、静止立位時の麻痺側荷重率 46.8%、10m歩行における所要時間16.3秒、歩数26.0歩、FES32点。BWSTT後評価-FIM運動項目90点、BBS52点、静止立位時の麻痺側荷重率49.8%、10m歩行における所要時間14.0秒、歩数24.0歩、FES32点。<BR><BR>【考察】<BR> 今回、杖歩行から独歩移行期に最大スピード下でBWSTTを導入することは、独歩時の静止立位時の麻痺側荷重率や歩行パターンの改善より、脳卒中片麻痺患者に対し有用であることがわかった。<BR>転倒恐怖感は、自己効力が低下した状態であり、自己効力が高いほど転倒に対する恐怖心が少なく活動性が高いと言われている。本症例は、理学療法開始当初から歩行時の体幹の後傾や本人の訴えから転倒に対する恐怖心の強さがうかがえた。BWSTT開始時に転倒自己効力感が直後で高くなったのは、ハーネスによる懸吊による恐怖心の緩和が考えられる。さらに静止立位時の麻痺側荷重率や歩行パターンの改善が即時効果でも確認されており、相乗効果があったと考えられる。<BR> 今回の結果より、症例数を増やし本結果の妥当性を検証していく必要性がある。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 転倒恐怖感がある脳卒中患者に対し、BWSTTを施行し訓練効果を検討した。今回は、一症例ではあるが、恐怖心が強い患者に対し、独歩への移行期に取り入れることで良好な結果を残せたことは、理学療法上有用な報告であると考える。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2010 (0), BbPI2140-BbPI2140, 2011
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680549758720
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- NII論文ID
- 130005016878
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可