歩き始めからの歩幅および歩行速度の変化におよぼす加齢の影響について

  • 菊池 麻美
    社会福祉法人敬仁会 青森敬仁会病院 リハビリテーション科
  • 對馬 均
    弘前大学大学院保健学研究科

説明

【はじめに、目的】 臨床における歩行能力の評価方法としては、10m歩行速度測定が一般に用いられ、この歩行路の長さについては、歩行速度を一定とするために予備路として、前後に3mを加えた長さとするのが一般的である。しかし、在宅などの狭い環境下ではそれほどの距離を確保することは困難な場合が多い。先行研究において、歩き始めより3歩あるいは4歩で歩行状態は一定になるとされているものの、距離については明確にされていないのが現状である。また、身体機能の低下している虚弱高齢者においては、どれほどの歩数や距離で一定になるのかについて明らかにされていない。そこで本研究では、歩き始めから歩幅や歩行速度が一定になるまでの変化過程に着目し、健常成人と高齢者との比較から、歩行能力の加齢による影響について明らかにし、より適切な歩行計測方法を示すことを目的とする。【方法】 対象は、健常成人12名(平均年齢20.5±1.38歳、平均身長165.38±8.65cm:健常成人群)と通所施設利用中および回復期リハビリテーション病棟に入院中の虚弱高齢者12名(平均年齢75.25±6.27歳、平均身長154.13±8.29cm:高齢者群)とした。高齢者群については、裸足での歩行が自立レベルの者とし、T字杖の使用は可とした。歩行要素の測定は、前後3mの助走区間を含む16m歩行路において、自由歩行にて行なった。この際、歩幅計測のため、水分で着色、乾燥で脱色、繰り返し使用可能な“お絵かきシート”を繋いで幅78cm、全長16mのフットプリント測定シートを作成した。これを歩行路にセットし、被験者に水で濡らした足で歩いてもらうことで1歩ごとの歩幅を実測した。同時に、仙骨部に装着した無線3軸加速度計からの加速度データ(サンプリング周波数20msec)と同期スイッチによるイベント信号を基に、各歩の所要時間と10m平均歩行速度を測定した。得られた1歩ごとの歩幅データと所要時間から歩行開始から終了までの各歩の歩行速度を算出した。測定回数は3回とし、各群の歩幅および歩行速度の経時的変化を検討するとともに、3歩毎の平均値と標準偏差から変動係数(CV)を求め、歩幅および歩行速度のばらつきの収束状況から、それぞれの値が一定となる傾向について検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言を尊重し、研究内容および公表についても書面にて同意を得て、研究同意の撤回がいつでも可能なことを説明し、個人が特定されないように配慮して分析した。なお、本研究は弘前大学大学院医学研究科倫理委員会の承認を受けて実施した。【結果】 10m平均歩行速度は健常成人群で1.46±0.24m/sec、高齢者群で0.67±0.25m/secであり、健常成人群の方が有意に速かった(P<0.01)。両群ともに歩行開始時より歩幅は徐々に大きくなり、歩行速度も徐々に速くなる傾向がみられた。歩き始めから3歩毎のCVデータについてみると、健常成人群では、歩幅は3歩目以降に0.01以下で収束し、歩行速度については4歩目以降に0.02以下で収束する傾向がみられ、この間の平均移動距離は2.64mであった。一方、高齢者群においては、歩幅は健常成人群と同様に3歩目以降に0.01前後で収束し、歩行速度については3歩目以降に0.02前後で収束するものの、歩幅および歩行速度ともに健常成人群に比較してばらつきが大きかった。なお、高齢者群が3歩移動するのに要した平均距離は1.13mであった。【考察】 健常成人群および高齢者群ともに、歩き始めから3歩あるいは4歩で歩幅や歩行速度がある程度一定となるという結果が得られ、歩数においては、先行研究を支持する結果となった。一方、歩幅や歩行速度が一定となるまでの距離については、健常成人群は2.64mであり、3mという一般的な助走距離に類似した結果であったのに対し、高齢者群は1.13mであり、一般的な助走距離より明らかに短いという結果が得られた。高齢者群は健常成人群に比較し、歩行速度が著明に低下しており、これがいわゆる“定常歩行”となるまでの距離に影響することが示唆され、虚弱高齢者を対象とした歩行能力評価では、より短い助走距離で行なうことが可能と思われる。【理学療法学研究としての意義】 虚弱高齢者の歩行状態が、歩き始めからどれほどの歩数や距離で一定になるのかという点を明らかにしたことにより、在宅高齢者の歩行能力評価の方向性が示されたという点で有意義であると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ab0411-Ab0411, 2012

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549766656
  • NII論文ID
    130004692355
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ab0411.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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