経頭蓋直流電気刺激による下肢運動皮質興奮性の促通:電極貼付位置の効果の検討

DOI
  • 立本 将士
    東京湾岸リハビリテーション病院 リハビリテーション部
  • 山口 智史
    慶應義塾大学大学院 医学研究科 日本学術振興会
  • 田中 悟志
    自然科学研究機構 生理学研究所
  • 横山 明正
    東京湾岸リハビリテーション病院 リハビリテーション部
  • 近藤 国嗣
    東京湾岸リハビリテーション病院 リハビリテーション部
  • 大高 洋平
    東京湾岸リハビリテーション病院 リハビリテーション部 慶應義塾大学医学部 リハビリテーション医学教室
  • 定藤 規弘
    自然科学研究機構 生理学研究所

抄録

【はじめに、目的】 経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation: tDCS)は,頭蓋の外に置いた電極から微弱な直流電流を流して大脳皮質の興奮性を促通する方法であり,リハビリテーション効果を促進するための新しい補助的治療法として期待が高まっている.陽極刺激は電極直下の大脳皮質の興奮性を一時的に促通し,また陰極刺激は抑制することが報告されている.運動皮質興奮性の促通を目的とする場合,陽極電極を運動皮質の直上に,陰極電極を対側の前額部に置く場合が一般的とされている.しかし,陰極電極を前額部に貼付することで,直下の前頭葉に対する抑制効果の影響が懸念されるため,実際の臨床応用を視野に入れた場合,頭部以外に貼付する方法が望ましい.今回われわれは,陰極電極の貼付位置を上腕部においても下肢運動皮質の興奮性の促通効果が得られるかを検討した.【方法】 対象は,健常男性10名(平均年齢26.2±4.1歳)であった.tDCSの刺激は,強度2mAで10分間とした.実験条件は,1)陰極電極(50 cm2)を右前額部に貼付する条件,2)陰極電極を右上腕部に貼付する条件,3)陰極電極を右前額部に貼付し,最初の15秒間のみ刺激を行う偽刺激条件の3条件とした.陽極電極(35cm2)は全ての条件で左下肢一次運動野の直上に貼付した.経頭蓋磁気刺激法(transcranial magnetic stimulation: TMS)にて運動誘発電位(motor evoked potential: MEP)を測定し,最もMEPが観察される部位を下肢一次運動野とした.皮質興奮性への効果を検討するため,TMSによる右前脛骨筋のMEPを記録した.TMSの最低刺激強度(resting motor threshold: RMT)は,50μVのMEPが50%の確率で出現する強度とした.TMSは,RMTの100%,110%,120%,130%の強度で,それぞれ10回の刺激を行った.評価は,tDCSの介入前,介入直後,介入後10分,介入後30分,介入後60分に行った.データ処理は,個々の波形からMEPの最大振幅値を算出した後,それぞれのTMS刺激強度での平均値を算出し,介入前の値を基準とした割合で比較した.統計解析は,それぞれの刺激強度において反復測定二元配置分散分析,Bonferroni法にて多重比較検定を行った.有意水準は5%とした.また刺激による副作用の有無を観察するため,心拍および脈拍をtDCS介入の前後で全ての条件において測定した.【倫理的配慮、説明と同意】 東京湾岸リハビリテーション病院倫理審査会の承認後,全対象者に研究内容を説明し,同意を得た.【結果】 分散分析から,刺激強度120%及び130%の条件において,交互作用(120%:F[8,72]=4.975,p<0.001,130%:F[8,72]=2.515,p<0.05)を認めた.このことは,電極の貼付位置の違いによりtDCSの介入効果に差があったことを示唆しているため,更に詳細な分析を行った.多重比較検定では,刺激強度120%において,陰極電極を前額部に貼付した条件では介入前と比較し,介入後10分,介入後30分にMEPの有意な増大を認めた.また陰極電極を上腕部に貼付した条件においても,介入前と比較し,介入後10分,介入後30分,介入後60分にMEPの有意な増大を認めた.一方,偽刺激条件においては,介入の前後でMEPの有意差を認めなかった.前額部条件と上腕部条件との間に関して,MEPの有意差は認めなかった.刺激強度130%においても120%と同様に陰極刺激を前額部と上腕部に貼付した条件において介入後にMEPが増大した.偽刺激条件においては,介入の前後でMEPの有意差を認めなかった.また全ての条件で,心拍および脈拍に介入前後で有意差を認めなかった.【考察】 今回,陰極電極を上腕部へ貼付することで,前額部への貼付と同様に下肢運動皮質興奮性の増大を認めた.本研究から,下肢運動皮質興奮性の促通を目的とした場合,陰極電極の貼付は上腕部であっても,効果が得られることが示唆された.また,心拍や脈拍のバイタルサインに有意な変化は検出されず,その他の副作用も観察しなかった.これまでの研究では,陰極電極を前額部に貼付していたため直下の前頭葉に対する抑制効果の可能性が排除できなかった.特に実際のリハビリテーション医療への応用を考えた場合,下肢運動トレーニングとtDCSを複数日連続して組み合わせて実施するデザインが考えうるため,そのような陰極電極による前頭葉への抑制効果の可能性はできるだけ排除したほうが望ましい.今回の結果から,陰極刺激を上腕部に貼付した場合でも,前額部に貼付した場合と同様の下肢運動皮質興奮性の促通効果が得られたため,陰極刺激の貼付位置は,前額部よりも上腕部のほうが望ましいと考えられる.【理学療法学研究としての意義】 tDCSをリハビリテーション効果を促進するための補助的治療法として応用する際に,より最適な電極貼付位置について本研究成果は新しい手掛かりを与えると考えられる.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Aa0877-Aa0877, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549776512
  • NII論文ID
    130004692320
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.aa0877.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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