急性期脳梗塞患者の座位姿勢保持能力と体幹機能,日常生活動作能力との関連

DOI
  • 藤野 雄次
    埼玉医科大学国際医療センター リハビリテーション科 首都大学東京人間健康科学研究科
  • 網本 和
    首都大学東京人間健康科学研究科
  • 小泉 裕一
    埼玉医科大学国際医療センター リハビリテーション科
  • 深田 和浩
    埼玉医科大学国際医療センター リハビリテーション科
  • 門叶 由美
    埼玉医科大学国際医療センター リハビリテーション科
  • 佐藤 大
    埼玉医科大学国際医療センター リハビリテーション科
  • 高石 真二郎
    埼玉医科大学国際医療センター リハビリテーション科
  • 播本 真美子
    埼玉医科大学国際医療センター リハビリテーション科
  • 大塚 由華利
    埼玉医科大学国際医療センター リハビリテーション科
  • 並木 未来
    埼玉医科大学病院 リハビリテーション科
  • 前島 伸一郎
    埼玉医科大学国際医療センター リハビリテーション科

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抄録

【目的】片麻痺患者の体幹機能障害は,起居動作や歩行などに影響をおよぼすことが知られている.しかし,片麻痺患者の体幹機能障害における運動学的分析は明らかでなく,また運動学的特性と日常生活動作能力(以下,ADL)との関連については十分検証されていない.そこで本研究の目的は,発症初期における安静座位と最大側方偏倚肢位での座位姿勢を運動学的に分析し,当院退院時の体幹機能とADLに関連するかを検討することである.<BR><BR>【方法】対象は急性期脳梗塞患者15例(左片麻痺6例,右片麻痺9例,全例右手利き,平均年齢64.5±10.1歳,平均測定病日12.3±5.7日,平均入院期間35.6±11.3日)であった.取り込み基準は足底非接地での端座位保持が可能かつ課題の理解が可能な例とし,基準を満たした時点で後述する課題を測定した.健常高齢者は測定に影響を及ぼす可能性のある骨関節疾患の既往がない10例(平均年齢68.3±7.3歳)とした.座位保持の課題は,背もたれのない台座上で足底非接地・上肢支持なしで座位をとり,主観的正中位での姿勢保持を行う安静課題と体幹を左右へ最大偏倚させた偏倚課題とした.運動学的分析として,反射マーカーを対象者の後頭結節,第7頚椎,第4腰椎,両側の肩峰および上後腸骨棘に貼付して各課題の姿勢をビデオカメラで記録し,動作解析ソフトを用いて分析した.身体軸の定義は,頭定位(後頭結節-第7頚椎),身体定位(第7頚椎-第4腰椎),上部体幹定位(両側肩峰を結ぶ線),下部体幹定位(上後腸骨棘を結ぶ線)とし,頭定位と身体定位は垂直軸を0°,上下部体幹定位は水平軸を0°として,非麻痺側への傾きをプラス・麻痺側への傾きをマイナス角度として算出した.当院退院時の臨床的指標はTrunk Control Test(以下,TCT)とFunctional independence measure(以下,FIM)運動項目を評価し,退院時期が異なることからFIM efficiency(=(退院時FIM-入院時FIM)/入院日数)を求めた.安静課題については統計解析に際して健常高齢者から算出した身体各部の角度における標準偏差(±2SD)を基準に安静偏倚群と非偏倚群に分類した.発症初期の安静課題(偏倚群・非偏倚群)および偏倚課題における身体各部の角度と当院退院時のTCT,FIM efficiencyとの関連についてPearsonの積率相関係数を用いて検討した.統計処理にはSPSS16.0Jを使用し,有意水準は5%未満とした.<BR><BR>【説明と同意】本研究は当院倫理審査委員会の承認を得て実施した.対象者には事前に本研究の内容を書面にて説明し同意を得た.<BR><BR>【結果】健常高齢者を基準とした安静課題の偏倚は,頭定位と身体定位が偏倚群6例,非偏倚群は9例であり,上下部体幹定位は全例2SD以内であった.非麻痺側偏倚課題は頭定位23.5±14.1°,身体定位19.3±6.6°,上部体幹定位26.0±8.3°,下部体幹定位11.6±8.1°,麻痺側では頭定位-23.9±15.9°,身体定位-17.5±6.8°,上部体幹定位-24.0±7.8°,下部体幹定位-18.1±10.2°であった.FIM efficiencyは1.2±0.5点/日,TCTは77.5±13.4点であった.このうち,非麻痺側偏倚課題における身体定位のみがFIM efficiencyと有意な中等度の相関を認めた(p<0.05,r=0.578).<BR><BR>【考察】ADLの改善には非麻痺側方向へ身体を偏倚させる能力が関与したが,麻痺側方向では関連がみられなかった.非麻痺側への側方偏倚には麻痺側の腹部および脊柱起立筋の活動が重要とされ,非麻痺側偏倚課題における身体定位能力の評価は発症初期における麻痺側の体幹機能を反映するものと考えられた.一方,安静座位における姿勢偏倚の有無は体幹機能障害を表すものと思われるが,回復過程にある急性期患者に対する縦断的観点においては関連性が低いことが示唆された.TCTは非麻痺側と麻痺側への寝返り,起き上がり,座位の4項目を各々3段階で採点する評価バッテリーであり,代償動作でも加点される.そのため,ADLに求められる選択的かつ機能的な麻痺側体幹の機能的評価としては不十分であったものと思われる.よって片麻痺患者の体幹機能障害に対する理学療法を展開するうえで,非麻痺側方向への身体定位能力に対する評価および治療がADLの改善に重要な要因となることが示唆された.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】片麻痺患者における体幹機能の運動学的特性とADLとの関連を明らかにすることで,急性期からの戦略的な評価・治療の一助となることが期待される.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), BbPI2177-BbPI2177, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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