健常人のヒラメ筋におけるH波・F波出現様式

  • 山下 彰
    ボバース記念病院リハビリテーション部 関西医療大学大学院保健医療学研究科保健医療学専攻
  • 鈴木 俊明
    関西医療大学大学院保健医療学研究科保健医療学専攻 関西医療大学保健医療学部臨床理学療法学教室
  • 文野 住文
    関西医療大学大学院保健医療学研究科保健医療学専攻

Description

【はじめに、目的】 脳血管障害片麻痺患者の脊髄運動神経機能の興奮性の評価としてH波、F波を用いて検討されてきている。H波、F波の評価方法としては、波形そのものを分析する方法が一般的であるが、鈴木らは上肢の母指対立筋において脳血管障害片麻痺患者26名のH波、F波出現様式を検討している。脳血管障害片麻痺患者における下肢のH波、F波の出現様式に関しての報告はなく、健常人を対象とした研究報告も認めない。そこで今回は、脳血管障害片麻痺患者の客観的な機能評価としてH波、F波の出現様式の変化を臨床応用する前段階として、健常者を対象に刺激強度増加に伴うヒラメ筋のH波とF波の出現様式を検討した。【方法】 対象は神経学的及び整形外科学的に自覚的、他覚的所見を有さない健常成人10名(男性7名、女性3名、平均年齢28.8±9.4歳)を対象とした。方法は背臥位にて膝伸展位でベッド端より足部を出した肢位にて被検者の右ヒラメ筋よりViking Quest(Nicolet)を用いてH波、F波を導出した。脛骨神経(膝窩部下方)に対して0.5Hzの刺激頻度と0.2msの持続時間で32回刺激は常時一定とし,刺激強度を弱刺激から最大上刺激まで増加させた時のH波・F波の出現様式の分析について検討した。刺激電極は2極の表面刺激電極を陰極部の膝窩下方へディスポーサブル電極を配置し、クリップ式電極で電極を挟み、陽極部を膝蓋骨より上方の部分に配置した。H波・F波記録は皿型表面電極で探査電極を下腿内側2/3にあるヒラメ筋単独部位の筋腹上に、基準電極を内果上に配置した。出現様式は鈴木らの研究同様4つのタイプに分類した。刺激強度の増加によりH波は認めずにF波が出現するパターンをタイプ1とし、刺激強度の増加によりH波が出現し、その後H波が消失しF波が出現するパターンをタイプ2、刺激強度の増加に伴いH波が出現し、その後H波波形のなかにF波が出現するパターンをタイプ3、刺激強度の増加に伴いH波が出現し、F波は出現しないパターンをタイプ4とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究ではヘルシンキ宣言の助言・基本原則および追加原則を鑑み、予め説明した本研究の概要と侵襲、公表の有無と形式、個人情報の取り扱いについて同意を得た被験者を対象に実施した。【結果】 ヒラメ筋のH波・F波出現様式は10名ともにタイプ3であった。【考察】 ヒラメ筋の脊髄神経機能の報告は、H波を用いた研究がほとんどであり、F波の報告は散見する程度である。H波の機序はIa感覚神経線維を興奮させ、それが単シナプス性に接続している脊髄前角細胞を興奮させ、筋活動電位を発生させる。F波は最大上刺激(M波の1.2倍)によって生じた興奮により運動神経を逆行したインパルスが脊髄前角を経て、再度運動神経に戻り、順行性に筋に伝導して導出される。F波刺激強度は通常、M波の最大振幅を認める120%程度(最大上刺激)を用いるとされている。しかしながら、脳血管障害患者や健常者でもときに最大上刺激でH波が認められるとも言われている。鈴木らの上肢のH波・F波出現様式結果はタイプ1~4になるにしたがって、筋緊張の亢進の程度は高まることを報告した。要するに、H波、F波の出現様式は筋緊張の程度を反映することがわかった。そこで脳血管障害片麻痺患者のヒラメ筋の筋緊張評価のひとつとして、今回はH波、F波の出現様式の変化を検討した。健常者では、H波が弱刺激で出現し、強刺激でもH波は残存するが、H波の波形とほぼ同様な潜時でF波が出現した。本研究結果から、上位中枢が興奮していない健常人においてもH波が高振幅で出現した状態でF波が出現することがわかった。脳血管障害片麻痺患者では筋緊張が正常域なものはタイプ3、上位中枢の興奮性が増加し、筋緊張が亢進している状態では、H波が高振幅で出現し、そのためにF波が出現しにくくなり、タイプ4になる可能性がある。逆に急性期で下肢への上位中枢の興奮性が低下し、筋緊張が低下している症例ではタイプ1か2になる可能性もある。このように出現様式の変化が筋緊張の程度を反映する可能性が考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究結果より健常者におけるH波、F波出現様式の変化について考察した。今回の結果だけでは、理学療法評価には反映することはできないが、ヒラメ筋のH波、F波の出現様式の正常パターンを理解できた研究であった。今後、脳血管障害片麻痺患者のヒラメ筋よりH波・F波出現様式及び波形分析を行っていくことを考えており、理学療法領域において運動機能評価と組み合わせれば客観的な機能評価として用いることが可能であると考えている。

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549809920
  • NII Article ID
    130004692319
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.aa0876.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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