頭頸部アライメントが上肢拳上動作に及ぼす影響について
書誌事項
- タイトル別名
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- ─肩甲骨周囲の筋電図、上肢最大拳上角度での検討─
説明
【はじめに、目的】 臨床において肩関節術後の逃避肢位やデスクワークを始めとした作業姿勢、加齢に伴う円背姿勢などの上位脊椎の乱れにより、正常な肩甲上腕リズムの獲得に難渋する事をしばしば経験する。先行研究では上肢拳上のメカニズムは、Codman(1934)が肩甲上腕リズムを提唱して以来、上腕と肩甲帯の運動を中心とした様々な研究が行われてきた。Cailliet(1981)はさらにこの動作において、胸椎の伸展運動が伴うことを報告した。またKapandji(1982)は、上肢拳上最終域にて、腰椎の前弯が起こるとした。しかし、頭頸部のアライメントが上肢拳上に与える影響についての報告は見当たらない。よって本研究では、頭頸部の姿勢変化における、上肢拳上角度の相違と上肢拳上動作に伴う肩甲骨周囲筋の活動の相違を分析することにより、頭頸部アライメントが上肢拳上動作に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は、肩関節、脊柱に既往がない健常成人男性5名の両上肢とし、計10上肢で測定を行った。平均年齢27.0±1.3歳、平均身長 175.2±4.3cm、平均体重 71.0±10.1kgであった。測定肢位は頭頸部中間位(以下、中間位)、頭頸部前方位(以下、前方位)の2肢位とした。座位にて測定し、足部の位置は肩幅とした。上肢の開始肢位は自然下垂位とした。脊柱の開始肢位は篠田(2006)の研究を参考に体幹を直立させ、矢状面上で耳垂-肩峰-坐骨結節が直線になる位置とし、クッション、ベルトにて骨盤帯、頭部を固定、これを中間位とした。前方位は開始肢位を基準に、C7棘突起の位置変化がない範囲での頭部最大前方位とし、同様に骨盤帯・頭部を固定した。以上、2肢位を乱数表を用い無作為に施行した。尚、上肢拳上動作は自然拳上にて実施した。測定項目は、頸椎屈曲角度、上肢最大拳上角度、肩甲骨周囲の筋電図とした。頸椎屈曲角度は基本軸をC7棘突起からの垂線、移動軸をC7棘突起とC2棘突起を結ぶ線とした。上肢拳上角度は基本軸を肩峰からの垂線、移動軸を上腕骨とした。角度は理学療法士がゴニオメーターを用いて計測した。表面筋電図はマルチテレメータシステムWEB-5500(日本光電工業株式会社)を用い、パーソナルコンピュータにサンプリング周波数100Hzにて取り込んだ。電極は銀・塩化銀型ディスポ電極(日本光電工業株式会社)を用いた。導出方法は双極導出法とした。電極貼付位置は、僧帽筋上部・中部・下部線維、三角筋前部線維、前鋸筋へ、加古原(2006)、三浦(2009)の研究を参考に貼付した。貼付後、各肢位において上肢拳上角度30°、60°、90°、120°、150°を、乱数表を用いて無作為に行い、等尺性に3秒間保持させ、中間2秒間をサンプリングした。これを2回施行し2回の平均をもって個人のデータとした。上記測定後、各筋等尺性最大収縮を被験者に行い、3秒間保持させた中間2秒間をサンプリングし、その値を本研究での最大随意収縮の積分筋電と定義した。各筋最大随意収縮の積分筋電を1とし、各肢位での筋活動を筋電図相対値とした。尚、筋疲労への配慮から頸部の各肢位での測定間には30分の休憩を行い、被験者の主観的な疲労感がないことを確認した。統計は、各筋同一角度での筋電図相対値、上肢最大拳上角度、頸椎屈曲角度で、対応のある2変数の差の検定を行った。検定に先立って、データが正規分布に従うかをシャピロ・ウイルク検定で確認した。有意水準はp=0.05とし、すべての統計解析はR2.8.1を使用した。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者に研究の趣旨に関する説明を行い、書面にて同意を得た上で本研究に関する測定に参加して頂いた。【結果】 頸椎屈曲角度は、中間位で17±2.6°、前方位で36±6.9°であり、前方位で有意に大きい結果であった(p<0.01)。また、上肢最大拳上角度は、中間位で172.0±7.5°、前方位で162.0±8.6°であり、前方位で有意に小さい結果であった(p<0.05)。筋電図では、僧帽筋上部線維が90°、150°において前方位で有意に高値を示した(90°p<0.05、150°p<0.01)。【考察】 結果より、中間位に比べ前方位で上肢拳上後半での僧帽筋上部線維の過活動がみられ、上肢最大拳上角度が減少した。これは、頸椎屈曲に伴い胸椎の伸展制限が生じたためと考えられる。元脇(2006)の報告では上肢拳上時の脊柱の伸展制限が胸郭の下制、鎖骨の前方牽引と前方回旋、肩甲骨前傾に連鎖するとあり、肩甲骨後傾による肩甲骨関節窩の上方変位が阻害され上肢最大拳上角度の制限に至ったと考える。また、上記制限のため僧帽筋上部線維にて拳上活動の強制が行われたと考える。【理学療法学研究としての意義】 肩関節疾患を中心とした対象者に対して上肢拳上角度の増大や筋仕事量軽減を目指した介入として、頭頸部アライメントに着目した評価、治療に有用性があると示唆された。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2011 (0), Cb0504-Cb0504, 2012
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680549850240
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- NII論文ID
- 130004693024
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可