回復期以降の嚥下運動障害者の相対的喉頭位置は下方にあるか

  • 吉田 剛
    高崎健康福祉大学理学療法学科設置準備室

Description

【はじめに】一般的に、加齢により喉頭位置は下降して、嚥下時の喉頭挙上、食道入口部開大を阻害するといわれているが、喉頭が上方に位置して喉頭運動を阻害する病態については知られていない。我々は嚥下運動阻害因子を検討するための指標として相対的喉頭位置を開発し、臨床で用いてきた。本学会で過去に発表した縦断研究では、嚥下障害重症度の悪化時に、頸部・体幹機能の低下と相対的喉頭位置の上昇が生じることを示したが、悪化群は6名と少なかったため、喉頭位置が上昇することにより悪化することの意味は解明できなかった。<BR>【目的】脳卒中による嚥下運動障害者について、発症後、片麻痺などの運動障害による姿勢への影響がある程度定着したと考えられる回復期以降のデータを横断的に分析し、嚥下運動障害者の中で、相対的喉頭位置が上方に位置する者がどれくらい存在するのかを明らかにしたい。また、相対的喉頭位置が特に高い群と低い群および中等度群の3群に分けて、その特徴を検討することで、喉頭位置が上方にある群の特徴を明らかにしたい。<BR>【方法】対象は、脳血管障害による嚥下運動障害を有し、発症から評価までの期間が90日以上経過したデータを有する127名(男女比69:58、平均年齢75.2±13.2歳)であった。評価項目は、嚥下障害について、才藤の臨床的病態重症度分類、反復唾液嚥下テスト(RSST)、改訂版水飲みテスト(MWST) 、食物テスト(FT)の4つ、頸部・体幹機能として、吉尾らの頸・体幹・骨盤帯機能ステージ(NTPステージ)、頸部関節可動域4方向(回旋と側屈は左右で少ない方の値を採用)、運動麻痺の程度は、下肢のブルンストロームステージを4段階にグレード化し、ステージ1と2を重度=3、3と4を中等度=2、5と6を軽度=1、麻痺なし=0とした。また、我々が開発した嚥下運動阻害因子に関する評価項目として、前頸部最大伸張位でのオトガイ~甲状切痕間距離GT、甲状切痕~胸骨上端間距離TS、GT/(GT+TS)で計算する相対的喉頭位置(T位置)、舌骨上筋筋力を4段階で示すGSグレードを採用した。127名の全データから、T位置が、平均値より1標準偏差以上逸脱しているかどうかで、上方群、下方群、平均群の3群に分類した。統計処理は、有意水準を5%未満として、平均群と上方群、平均群と下方群間の比較には、ウェルチのt検定およびマン・ホイットニーのU検定を用い、各評価項目間の相関については、各群でピアソンの相関係数を求めた。<BR>【説明と同意】ヘルシンキ条約に基づき、全対象者またはその家族に対して、研究の目的、方法を十分に説明したうえで、同意を得た。<BR>【結果】127名のT位置の平均は、0.41±0.07であり、上方群(T位置<0.34)は24名(平均70.0±18.1歳)で、下方群(T位置>0.47)は、14名(81.6±8.6歳)、平均群は89名(平均75.7±11.9歳)であった。上方群はGTが短く、下方群はTSが短い傾向がみられた。平均群に比べて、上方群は、頸部可動域制限が全方向にみられ、GSグレード、反復唾液嚥下回数も低かった。下方群は、平均群に比べて、年齢が高く、頸部伸展・回旋・側屈の可動域制限、GSグレード、NTPステージ、FTの低下がみられた。各群の指標間の相関は、全体および平均群では弱い相関であったが、上方群と下方群では、中等度の相関がみられる項目が多く、上方群では、GTとTSがNTPステージと、また重症度とNTPステージの間に中等度の相関がみられた。上方群の中でも、GSグレードが高く、TSの長さが長い者は軽症である傾向があり、下方群でもGSグレードが高い者は軽症である傾向がみられた。<BR>【考察】嚥下運動障害者のT位置は、下降により問題が生じるケースが多いが、上方に位置する場合も平均群より問題が大きいことが明らかになった。T位置上昇は、頸部・体幹機能低下によって生じる頸部筋緊張異常によるものと推察された。しかし、各群の中にも、GTやTSが標準より長いか短いか、喉頭挙上筋である舌骨上筋の活動が強いか、頸部可動域が標準以上であるかどうかで、嚥下障害の重症度は影響を受ける傾向がみられた。従って、これらの嚥下運動に影響を与える複数要素を複合的に評価しながら、嚥下運動の改善を図ることが必要であると考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】嚥下時喉頭挙上運動は、喉頭下降によって阻害されているばかりではなく、上昇位でも阻害されることが明らかになった。嚥下運動阻害因子を評価しながら、その病態に合わせて、舌骨上筋群の強化、舌骨上・下筋群の伸張性改善、頸部筋緊張の改善による可動域の向上などを行うことが、理学療法士の役割として重要であることが示唆された。

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549877760
  • NII Article ID
    130004581999
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.b3o1068.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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