咀嚼筋および頬筋に疼痛を伴い,開口制限を呈した2症例

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【はじめに、目的】 歯科口腔外科領域において,口腔顔面の疼痛や顎関節症(以下,TMD)などにより開口制限を呈し受診する患者は少なくない.また,虫歯や抜歯などの治療(侵襲)後にそれらの症状をきたしている場合もある.今回当院歯科口腔外科医師より,これらの患者に対しての理学療法の依頼を受けた.その中で咀嚼筋および頬筋の疼痛とともに開口制限を呈し,日常生活に支障をきたした2症例に対して介入を行った.理学療法施行後,良好な治療経過が得られたため,その評価と治療について報告する.【方法】 症例1:20代,男性. 現病歴:2011年6月上旬,右上下親不知を局所麻酔下にて抜歯.その後約1週間は右頬の腫脹,熱感等の炎症所見があり,咀嚼時と開口時の疼痛とともに開口制限を生じていた.約3週間後には炎症所見はほとんど消失したが,右側頭筋,内側翼突筋および頬筋の疼痛と開口制限は残存していた.それらの症状が食事の際の咀嚼,開口や欠伸の際にも悪影響を与えていた. 評価・治療:2症例ともに評価は我々が作成した評価シートを用いた.疼痛の指標としてはNumerical rating scale(以下,NRS)を用いた.治療は炎症症状が緩和した抜歯後3週間後より合計4回実施した.右の側頭筋,内側翼突筋および頬筋がTightnessで圧痛や伸張痛(NRS3)を認めたため,それらに対して横断マッサージ,Post Isometric Relaxation(以下,PIR)を行った.また,頭部前方位姿勢(以下,FHP)を呈していたため,前頸筋群に対してstabilization,ホームエクササイズとして姿勢指導を各々合計4回実施した.症例2:30代,男性. 現病歴:2011年8月上旬,突如右顎関節周囲に疼痛が出現.著明な炎症所見はないが,主に右顎関節部に疼痛があり,日常生活では食事の際の開口制限,咬合時痛を生じていた. 評価・治療:評価は合計3回実施.治療は症状出現より1週間後から実施した.主に右側頭筋,咬筋および頬筋がTightnessで最大開口時と咬合時に右の顎関節部に疼痛 (NRS5)を認めた.右の顎関節に対してはmobilizationを実施し,筋に対しては横断マッサージとPIRを実施した.また,FHPは認めなかったためコンディショニングとして前頸筋トレーニングのみ実施した.なお,2症例の1回の評価・治療の時間は約40分程度とした.【倫理的配慮、説明と同意】 2症例に対し,本研究の目的と発表の旨を書面と口頭にて説明し,同意を得た.【結果】 症例1は4回の治療で最終評価時(抜歯後7週目)には疼痛は消失(NRS0)した.また最大開口については,治療前36mmと著明な開口制限を認めていたが,最終評価時には最大開口50mmまで可能となり,日常生活での咀嚼や欠伸が違和感なく行えるようになった.姿勢は,初期評価時にFHPを認めていたが最終評価時にはやや頭部屈曲位が強調され,下顎の位置の変化が認められた. 症例2は上記2回の治療で最終評価時(発症後5週目)には疼痛は軽減(NRS0から1)した.また最大開口については,治療前24mmと著明な開口制限を認めていたが,最終評価時には最大開口50mmまで可能となり,食事の際の開口や咀嚼が違和感なく行えるようになった.【考察】 日常生活では会話や食事の際,開口や咀嚼は欠かせない動作であり,それらは顎関節周囲の筋によって機能し,同時にstabilityを形成する上でも重要な役割を果たしている.すなわち,顎関節はFunctionalかつstabilityの両方を筋に大きく依存する関節といえる.症例1は抜歯が施行され,それに伴い侵襲や長時間の開口が外力として咀嚼筋等に筋スパズムを惹起させ,疼痛や開口制限を生じたと考えた.症例2は特発性ではあるが,右顎関節部に疼痛があり,トリガーポイントを中心としたアプローチにて改善したため,Travellらにより報告されている咬筋由来のReferred Painであると考えた.両者ともに,筋を中心にアプローチすることで,疼痛や開口制限を改善できたと推察した.また症例1に関して,瓜谷らはFHPに対して姿勢指導を実施することで開口障害,顎関節痛が消失した例を報告しており,本症例も姿勢指導によりその改善に至ったと考えた.【理学療法学研究としての意義】 TMDや口腔顔面痛の治療で,理学療法などの保存的治療が第一選択としてあげられるようになってきている.それらは歯科医師が中心として行っていて,歯科口腔外科からの直接的な依頼で理学療法士が介入し治療するという一連の流れは日本では普及していない.疼痛や開口制限を抱えた患者が適切に治療されず,長期的に症状が持続する場合,それらが一要因となり顎関節自体にも影響を及ぼし,TMDへと移行する可能性があると考えられる.今日は,全身の骨格筋の評価・治療を実施する理学療法士の介入の必要性と口腔外科との連携が求められるのではないかと考える.

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549898624
  • NII Article ID
    130004693189
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.cd0838.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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