片麻痺患者の日常生活動作と体幹機能との関連

DOI
  • 渡辺 学
    北里大学北里研究所メディカルセンター病院 首都大学東京人間健康科学研究科
  • 網本 和
    首都大学東京人間健康科学研究科
  • 新井 智之
    北里大学北里研究所メディカルセンター病院
  • 大沢 涼子
    北里大学北里研究所メディカルセンター病院
  • 元房 美穂
    北里大学北里研究所メディカルセンター病院

抄録

【目的】片麻痺患者における体幹機能は急性期リハビリテーションにおいて重要な介入対象であるが座位回旋動作の解析については報告が少ない。そこで我々は前回の本学会において片麻痺患者の座位体幹回旋動作の運動学的分析を行いその機能特性を報告した。体幹機能障害の回復が不良な場合には日常生活動作(ADL)の障害が重度になると言われているが、体幹機能のいずれの要素が関係するかについては十分には明らかにされていない。そこで本研究では急性期片麻痺症例を対象に端座位における体幹活動の運動学的分析を行い、ADLとの関連を調べADL障害の要因となる体幹機能特性を明らかにすることを目的とした。<BR>【方法】対象は脳血管障害片麻痺患者23例(左麻痺10例、右麻痺13例、全例右手利き、平均年齢67.1±9.8歳、平均罹病期間32.4±32.5日)であった。足底非接地の端座位が20秒以上可能な例とした。方法は背もたれのない台座上で足底非接地の座位をとり、主観的正中位での努力性姿勢保持を20秒間行う安静課題と、両腕を組んで体幹を最大回旋した姿勢を3秒間保持、同側に連続3回反復する回旋課題とした。各課題における下部体幹の角度、筋活動および重心偏倚を測定した。角度は電気ゴニオメーターを用いて第2腰椎を中心とした屈曲、側屈、回旋の3軸を記録した。筋活動は表面筋電計にて左右の脊柱起立筋、外腹斜筋を測定した。重心偏倚は重心動揺計を用いてX軸、Y軸の重心動揺中心位置を測定した。その他動作指標としてTrunk control test(TCT)、Functional independence measure (FIM)を測定した。統計解析は上述の運動学的測定項目および動作スケール間の相関を算出した。統計処理にはSPSS16.0Jを使用し、危険率は5%未満を有意とした。<BR>【説明と同意】研究プロトコルは著者所属機関の研究倫理委員会の承認を得た。対象者には本研究の内容を説明し書面にて同意を得た。<BR>【結果】FIM運動項目と麻痺側、非麻痺側回旋時の上部体幹回旋角度(r=-0.602, p=0.005 ; r=0.554, p=0.011)、非麻痺側回旋時の頭部回旋角度(r=0.561, p=0.01)、麻痺側回旋時の脊柱起立筋左右活動比(r=0.457; +が麻痺側優位, p=0.049)、非麻痺側回旋時の外腹斜筋左右活動比(r=-0.482; &#8211;が非麻痺側優位, p=0.036)にそれぞれ有意な中等度の相関を認めた。<BR>【考察】運動麻痺が重度であるほど体幹機能障害がADLに影響すると言われている。今回の研究では足底非接地の端坐位保持が可能なものを対象としているため運動麻痺は軽度な例が多かったが、FIM運動項目と有意な関係がみられた。座位を中心としたADLでは体幹機能が重要な要素となることが今回の結果からも確認された。さらに体幹機能の要素としては回旋時の上部体幹回旋角度が重要な因子となりうるが、回旋方向により姿勢方略が異なり、麻痺側回旋では麻痺側脊柱起立筋の活動を中心に麻痺側上部体幹を後方に牽引することで回旋を創出していると考えられた。一方非麻痺側回旋では非麻痺側外腹斜筋の活動が優位であり、これは頭部回旋と骨盤の麻痺側後傾による代償的回旋動作で重心が麻痺側後方に偏倚するのを非麻痺側外腹斜筋が制動していることが考えられた。これらの結果は、片麻痺患者が日常生活動作において体幹を有効に機能させるために、麻痺側の体幹機能を正常化させるよりも、麻痺による姿勢の左右非対称性を基準として重心を制動しつつ代償的に動作を行っていることが示唆される。さらに発症早期で運動麻痺が比較的重度でない症例が対象でみられることから、正常な運動プログラムを回復させるより、目的とする動作の結果を成立させるための新たな運動方略が学習されるものと考えられる。言い換えればこうした代償機転が働かない場合、体幹機能は重度に障害され日常生活動作を阻害してしまうことが予測される。よって前回大会の結果を踏まえ、体幹機能障害が重度な症例に対しては、個別の筋よりもむしろ動作のセットを目的として内的、外的な空間認知と運動との協調を再学習させることが有効な可能性が示唆される。<BR>【理学療法学研究としての意義】片麻痺患者の体幹機能障害特性と代償的動作方略を明らかにすることで、有効な理学療法アプローチの構築につながることが期待される。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), B3O2094-B3O2094, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549952768
  • NII論文ID
    130004582037
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.b3o2094.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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