バランス学習におけるビデオフィードバック付加効果の検証
説明
【目的】<BR> 運動学習にはフィードバック情報が有用であり,特にバランス学習には視覚的フィードバックが効果的であると報告されている。臨床においても,鏡によるフィードバック付加訓練が実施されることは多い。しかしながら,鏡による視覚的フィードバックは同時フィードバックであり,与え方によっては依存を助長することが指摘されている。一方,スポーツ分野を中心に,ビデオ映像を用いた視覚的かつ最終フィードバックの付加による運動学習効果が多数報告されている。しかしながら,リハビリテーション分野において,ビデオ映像によるフィードバックがバランス学習に対して効果的であるかは不明である。そこで本研究の目的は,バランス学習課題において,健常成人を対象に鏡によるフィードバックとビデオ映像によるフィードバックの付加効果の違いを明らかにすることである。<BR><BR>【方法】<BR> 対象は健常大学生42名(男性21名,女性21名,平均年齢21.6±1.5歳)とし,14名ずつ無作為にコントロール群,鏡フィードバック群(鏡群),ビデオフィードバック群(ビデオ群)の3群に割り当てた。学習課題は左右方向のみに不安定とした不安定板(DIJOCボード 酒井医療)上での立位バランス保持とした。各群ともに試行肢位は両肩幅での開脚立位とし,できるだけボードの両端が床と接しないよう長く保持するよう求めた。練習手順はpre testを実施し,その後1分間の課題試行と休憩2分を1セットとし合計5セット試行した。その後,post testを実施し,さらに学習保持効果をみるために24時間後にretention testを実施した。コントロール群では,試行中および試行後のフィードバックがなく,課題試行と休憩を繰り返した。鏡群では,試行中自身のパフォーマンスを鏡によるフィードバックを与えた。ビデオ群では各試行中に自身のパフォーマンスをビデオ撮影し,休憩時に自身のビデオ映像によるフィードバックを与えた。なお,各群ともに試行中は足元を見ないよう指示した。<BR> 評価項目は課題試行中の足圧中心総軌跡長と,DIJOCボード上にて連続で立位保持が可能であった最長保持時間とした。総軌跡長は圧力分布測定システム(ニッタ社製)により測定した。最長保持時間は,DIJOCボードの両端に圧センサー(NORAXON社)を設置し,床に接地することによる圧信号をPCに取り込みディジョックボードの両端が床と接していない時間を測定した。統計学的検定は総軌跡長および最長保持時間それぞれについて,pre testとpost testおよびretention testに対して,学習時期および群による効果を二元配置分散分析にて比較した。多重比較検定にはBonferroni法を用いた。<BR><BR>【説明と同意】<BR>実験参加に際し,対象者には文章および口頭にて十分な説明を実施し同意を得たものを対象とした。<BR><BR>【結果】<BR> 総軌跡長および最長保持時間ともに学習時期による主効果(p<0.01,p<0.01)が認められたものの,群による主効果(p=0.41,p=0.23)および交互作用(p=0.81,p=0.15)は認められなかった。多重比較の結果,総軌跡長では3群ともにpre testと比較してpost testにて有意な短縮が認められ(p<0.01),post testと比較してretention testにて有意な増大が認められた(p<0.01)。最長保持時間ではコントロール群およびビデオ群においてpre testと比較してpost testにて有意な増大が認められ(p<0.01,p<0.05),さらにビデオ群のみpre testと比較してretention testにおいても有意な増大が認められた(p<0.01)。鏡群に関しては有意差が認められなかった。<BR><BR>【考察】<BR> 本研究の結果から,3群ともに総軌跡長が有意に短縮したことからバランス課題における学習効果が得られたと考えられる。しかしながら,最長保持時間においては,コントロール群にて学習効果が認められ,さらにビデオ群においては学習効果だけでなく学習保持効果が認められた。ビデオ群では試行中に体性感覚情報,試行後にビデオフィードバックによる視覚情報の入力から,体性感覚および視覚情報との比較照合による誤差学習を促進させたことが考えられる。さらに,休憩中にビデオ映像を観察したことによって,次試行への運動イメージが形成されたとも考えられる。これに対し,鏡群では試行中の視覚情報に依存したことによって有効な学習に繋がらなかったと考えられる。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> バランス学習においてビデオ映像によるフィードバック付加が効果的であることが示唆された。ビデオ映像を用いた方法では特別な機器を必要とせず,様々な臨床場面にて利用可能であり,今後臨床研究による効果を検証することで,バランス障害を有する患者に対して有効な治療手段となる可能性が考えられる。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2010 (0), AaOI1012-AaOI1012, 2011
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680549980160
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- NII論文ID
- 130005016397
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可