呼吸リハビリテーション分野における呼吸筋トレーニングについて

DOI
  • 立元 寿幸
    東京医科大学茨城医療センター リハビリテーション療法部 茨城県立医療大学大学院 保健医療科学研究科
  • 石井 伸尚
    茨城県立中央病院 リハビリテーション技術科 茨城県立医療大学大学院 保健医療科学研究科
  • 冨田 秀和
    茨城県立医療大学 理学療法学科
  • 水上 昌文
    茨城県立医療大学大学院
  • 居村 茂幸
    茨城県立医療大学大学院

書誌事項

タイトル別名
  • 理論の再考と神経筋促通法(PNF)の効果

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抄録

【はじめに、目的】現在,吸気筋トレーニング(inspiratory muscle training;以下,IMT)について,その効果が認識されているが,十分なevidenceを得ていない.そこで,現在のIMTの方法を探ると,器具を用いた吸気抵抗負荷呼吸法が一般的であり,気道内圧や運動パターン,筋力増強メカニズムに配慮した筋力トレーニングを再考する余地があった. 今回,吸気補助筋群に遠心性収縮トレーニングを用いた固有受容性神経筋促通法(Proprioceptive Neuromuscular Facilitation;以下,PNF)によるIMTを考案し,器具を用いたIMTとの効果の違いを探る.【方法】本研究は,若年健常研究協力者(以下、協力者;24名:男19名・女5名,平均年齢±SD;27.6±3.4,グループ間の相関なし)を盲検化した上で,介入群(IMT群)とcontrol群(9名;男7/女2)にランダムに群分けした.さらに,介入群は,POWER breathe(英国GAIAM社製)を使用し,最大吸気圧(以下,PImax)の30%の吸気抵抗負荷を行うIMT群を器具介入群(8名;M6:F2)とし,吸気補助筋群にPNFを用いて修正Borg scaleの4程度の徒手抵抗負荷を行うIMT群をPNF介入群(7名;M5:F2)として,2群に分けた.第1研究にて, 器具介入群とPNF介入群のIMT中における吸気補助筋の活動性の差異について,各介入群から3名に対し,IMT時の胸鎖乳突筋の筋電図活動にて検証した.第2研究では, PNF介入群は器具介入群より, IMTの継続によりPImaxを指標として呼吸筋力の向上が図れることを推察し,協力者に対して4週間IMTを継続させ,呼吸機能検査(%FVC,FEV1.0%,PEF)と呼吸筋力検査(PImax,PEmax)にて検証した.トレーニングの頻度は,1回30呼吸×2セットを週に連日させず3日行わせた. 器具介入群の協力者は,器具を用いたIMTを自己管理のもと自宅で実施し,経過を記録した.解析は,初回に得られた検査値を100%とし,1週間毎の検査値を初回時と比較し正規化した.各測定値はトレーニングによる効果をみるために,トレーニング期間を要因として,二元配置分散分析を行った.多重比較検定にはBonferroniの方法を用いた.統計処理はSPSS17,0J for windowsを用い,それぞれ危険率5%未満(p<0,05)をもって有意差ありとした.【倫理的配慮、説明と同意】倫理的配慮として,協力者には書面をもって十分に研究内容を説明した上で同意をとり,実施した.また,研究について茨城県立医療大学倫理委員会にて承認(承認番号:416)を得た. 【結果】第1研究により, 器具介入群とPNF介入群では, PNF介入群において器具介入群よりも,IMT中に胸鎖乳突筋の有意な電位差(平均mvs±SD,PNF/器具:0.14±0.052/0.008±0.003)が確認できた.第2研究では,呼吸機能検査での特記すべき有意差は得られなかった.呼吸筋力検査におけるPImaxでは, 器具介入群には現在までの報告と同様に,介入前と比較して介入後4週目において有意な増加が認められた.一方, PNF介入群では,介入前と比較して介入後1・2・3・4週目のPImaxに有意な増加が認められ,介入後4週目では介入後1週目と比較して,有意な増加が認められた.さらに,二元配置分散分析により, PNF介入群に主効果を認め,有意な交互作用が認められた.PEmaxにおいても, PNF介入群において介入後2週目と4週目に有意な増加が認められた.【考察】今回,PNFによるIMTでは,器具を用いたIMTよりも,早期から有意なPImaxの向上による呼吸筋力の向上を得たことにより,仮説を実証できた.また,現在の報告にある,IMTに伴う呼吸困難感や酸素療法患者への使用の難しさなどのIMTの問題点を今回提案した吸気補助筋群へのIMTにて解決できる可能性が考え得る.今後は,症例研究や呼吸筋耐久力としての効果などの検証を行う.また、通常行われている,PNFを用いない徒手によるIMTとの比較を行い,PNF手技の有用性についても検証していく.呼吸筋力増強をPImax以外での評価にて行い,各呼吸筋別の効果などにも着目し,研究を継続していく.【理学療法学研究としての意義】呼吸筋トレーニングを運動学的視点から再考し、より効果のあるトレーニング方法を考案した。また、このことにより、呼吸筋が弱化した者に対してトレーニング法の見直しと、より安易に効果を得る期待ができる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100150-48100150, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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