超音波画像診断装置による横隔膜筋厚変化と横隔膜筋電図との関係

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抄録

【目的】Chonら(1997)の基礎研究では、超音波画像診断装置による横隔膜筋厚と肺気量には相関があることを報告している。一方、横隔膜筋厚の変化がどの程度実際の筋活動と相関しているのか不明である。我々は、吸気にともなう横隔膜活動において、超音波画像診断装置による横隔膜筋厚と表面筋電図で得られた実効値(root mean square:RMS)との間に相関関係が成り立つとの仮説を立てた。本研究では、健常者を対象として、吸気に伴う横隔膜の筋厚変化と表面筋電図との関係を検証することを目的とした。【方法】対象は心肺疾患のない健常男性7名(年齢21.0±0.8歳)とした。実験では、換気量ならびに横隔膜の表面筋電図を同期させながら、超音波診断機器による横隔膜の筋厚を測定する装置を用いた。換気量は、フェイスマスクに取り付けたスパイロメトリー(Respiratory Flowheads MLT300L、ML141 Spirometer、ADInstruments)で測定した。横隔膜筋電図は日本光電製マルチテレメータシステム(WEB-5000)を用いた。表面電極の貼付位置は先行研究(De Troyerら 1981、de Andradeら 2005)を参考とし、鎖骨中線と左腋下前線の間の第7・8肋間とした。その際、横隔膜呼吸を行わせ筋電図波形が出現することを確認した。横隔膜筋厚の測定は、リニア型プローブを装着した超音波画像診断装置(CONVEX SCANNER HS-1500、本多電子)を用いて、Bモード法、空間分解能7.5MHzで測定した。横隔膜筋厚の測定部位は、Chonら(1997)の方法を参考とし、右腋窩線上の第8・9肋間とし、横隔膜のzone of appositionにおける筋厚を測定した。筋電信号ならびに呼吸流速信号、超音波画像測定時の同期信号は、PC上の時系列解析アプリケーションソフト(Chart 5.5.6,ADInstruments)を用いて、サンプリング周波数1KHzで同期させて記録した。実験手順は、測定中の被験者の姿勢は座位とし、最初に吸気抵抗負荷を行わせ、横隔膜の最大随意収縮(MVC)を3回測定した。3回のうち最大値を採用し、その値をMVCとした。その後、被検者には換気量をモニタリングしながら、100%IC、75%IC、50%IC、25%ICの呼吸位を指示しながら、その際の表面筋電図ならびに横隔膜筋厚を同時測定した。データ解析では、筋電図信号は、各呼吸課題の換気量25%IC、50%IC、75%IC、100%ICに達した際の100msec間隔のRMSを算出し、次いでMVC時のRMSで正規化した(%RMS)。なお、筋電図上に心電図波形の混入が認められる部分については分析から除外し、純粋な筋電図波形のみの部分を分析対象とした。 各換気量における横隔膜筋厚の平均値は、一元配置分散分析を用いて比較検討した。各換気量における横隔膜筋厚と%RMSとの関係は、peasonの相関係数を算出した。いずれも統計学的処理は、IBM SPSS Statistics ver.19を用いて、p<0.05をもって有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言及び厚生労働省の「臨床研究に関する指針」に沿って研究を計画・実施した。被験者には、本研究の目的と内容を説明し、同意を得た。【結果】横隔膜筋厚の平均(±SD)は、25%ICで3.2±1.3cm、50%ICで4.1±1.5mm、75%ICで5.2±2.6mm、100%ICで5.6±2.6mmであり、換気量の増大に伴い有意に増大した(p<0.005)。横隔膜筋活動の%RMSは、換気量の増大に伴い有意に増大した(p<0.001)。また、横隔膜筋活動の%RMSと超音波画像診断装置における横隔膜筋厚の間には、正の相関関係が認められた(r=0.50)。【考察】Chonらの先行研究では、超音波画像診断装置による横隔膜筋厚と換気量には相関があることを報告しており、本実験でも同様の結果が認められた。しかしながら、横隔膜筋厚と表面筋電図との関係は報告されていなかった。今回我々の実験において、吸気に伴う横隔膜筋活動において、横隔膜厚の増大に伴い、横隔膜の筋活動の%RMSが有意に増大していくことが明らかとなり、超音波画像診断装置による横隔膜筋厚変化と表面筋電図との間に相関関係が成り立つという我々の仮説が実証された。【理学療法研究としての意義】本研究で用いた「横隔膜の筋厚モニタリング」は、横隔膜呼吸や吸気筋トレーニングなどの呼吸理学療法場面において、どの程度横隔膜の筋活動が実施できているかを検証しながら、適切なトレーニングへと誘導することができる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100161-48100161, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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