不快情動は姿勢動揺を減少させる
Description
【目的】<BR> 情動とは一時的で急激な感情の動き、身体的、生理的変化を伴うものとされており、注意、記憶、自律神経、運動、内分泌など人体のあらゆる働きに影響を与えている。本研究は、この情動の変化が姿勢制御にどのように影響するのかを検討するものである。情動と姿勢制御に関する先行研究では、不快情動喚起により姿勢動揺が増加する(Hillman 2004)、姿勢動揺が減少する(Azevedo 2005,Facchinetti 2006)、影響を受けない(Stins 2007)と散見されており、結果が統一されていない。これら先行研究では重心動揺測定時間が5~6秒と短く刺激提示直後の反応を主に測定しており、周期的変化を示す姿勢動揺の変化を検討するには問題がある。また、短時間の測定では姿勢制御に対する持続的な注意をそれほど必要としないため、本研究では測定時間を60秒、情動喚起時の生理的指標としてSkin Conductance(以下SC)を用いて先行研究の追試を行なうことを目的とした。<BR><BR>【方法】<BR> 被検者は健常成人30名(平均年齢21.1歳)である。「出来だけ体が揺れないように」という指示の下、閉脚立位姿勢にて眼の高さ、前方60cmに位置したモニター(15インチ)に映し出される動画を鑑賞する課題を用いた。モニターにはInternational Affective picture system(IAPS)(Lang 2005)の情動喚起画像から作成した情動喚起動画(快・中性・不快)を60秒提示し、その間の重心動揺とSCを測定した。なお、動画提示順による影響を考慮し不快→中性→快の順で動画が提示される不快先行群と、快→中性→不快の順で動画が提示される快先行群の2群(各15名)に被検者をランダムで割り付けた。SCはホイーストン・ブリッジ回路を作成し、右手第二、三指掌側に貼り付けた電極間の電位差(V)を基礎医学実験用システムLEG-1000(日本光電社)を用いて記録した後Conductance(μS)に変換した。快・中性条件では2秒、不快条件では2.5秒間の間に生じる最大の電位差(V)を用いた。重心動揺計にはG-6100(ANIMA社)を使用し、パラメータは総軌跡長、矩形面積、外周面積、実効値面積とした。また、実験終了後アンケートに回答してもらい、こちらが意図した情動を回答(例えば不快動画を不快と回答)し、かつ中性条件に比べ快・不快条件でSCが増加傾向であった20名(不快先行群1:快先行群1)を「意図した情動が喚起された者」として統計処理の対象とした。統計処理にはSCをFriedman検定(多重比較Scheffe法)、重心動揺では中性条件と不快条件のみを対応のあるt-検定(いずれも有意水準5%未満)を用いた。また、不快条件のSCと重心動揺の間のピアソンの積率相関係数を算出した。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 全ての被検者に本実験の十分な説明を行い、協力の同意を得た。<BR><BR>【結果】<BR> SCに関しては中性条件と比較し、不快条件においてのみ有意な増加を認めた(p<0.05)。また、重心動揺に関しては中性条件と比較し不快条件で矩形面積、外周面積、実効値面積の有意な減少を認めた(p<0.05)。不快条件のSCと重心動揺に関して相関関係は認められなかった。<BR><BR>【考察】<BR> SCと重心動揺に関して相関関係が認められなかったことから、交感神経の興奮からの直接的影響で姿勢動揺が減少したのではないことが言える。また、本研究の課題は不快情動から生じる闘争‐逃避反応による姿勢制御への干渉を制御し、出来るだけ安定した立位姿勢を保つものであるためDual Task課題となっていると考える。Dual Task課題において姿勢動揺が減少する報告(Maylor 1996, Morioka 2005, 片岡2007)があり、Moriokaらは心的ストレスが課題に要する注意に影響を与えているとしている。Dual Task課題遂行に必要な作業記憶は前頭前野背外側部がその基盤(Goldman-Rakic 1987)とされ、ここは情動の抑制にも働く(Beauregard 2001, Levesque 2003)と言われている。そのため、情動制御と作業記憶に関る前頭前野の活動が姿勢制御に対する注意を増大させ、姿勢動揺が減少したと考えた。今後は脳イメージング装置、筋電図を用いたより詳細な検討が必要である。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 臨床において動作に対する恐怖心や不安感などから、動作が制限される症例を数多くみかける。理学療法において、このような症例に対して効果的にアプローチを行う必要がある。本研究は、この分野における数少ない研究と考えられ、理学療法学研究として意義あるものと考えられる。
Journal
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- Congress of the Japanese Physical Therapy Association
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Congress of the Japanese Physical Therapy Association 2009 (0), H4P3256-H4P3256, 2010
Japanese Physical Therapy Association(Renamed Japanese Society of Physical Therapy)
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Details 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680550044160
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- NII Article ID
- 130004583081
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- Text Lang
- ja
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- Data Source
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- JaLC
- CiNii Articles
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- Abstract License Flag
- Disallowed