健常若年者における無酸素性作業閾値とBorg scale,心拍数,運動習慣との関連性

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【目的】運動療法において運動強度の安全かつ効果的な指標として無酸素性作業閾値(以下AT)が広く使用されている.ATの測定には呼気ガス分析装置を使用することが必要で大掛かりであり,マスクを装着するなど患者の圧迫感や不快感を伴う.Borg scaleや心拍数(以下HR)によるAT相当の指標が報告されているが,本来ATは個人差のあるものであり画一的に設定できない.そこで今回我々は若年健常者を対象として性別,運動習慣がATに与える影響を検討し,原型Borg scaleやHRとの関係を調べたので報告する.<BR><BR>【方法】対象は当学院在学中の健常学生36名(男18名,女18名)で,性別及び運動習慣の有無により4群(以下運動群、非運動群)に分けた.呼気ガス分析装置,自転車エルゴメータ,心電図計を用い,漸増負荷試験を行った.負荷試験中30秒毎にHRと原型Borg scaleを確認した.ATに達した時点から2~3分経過したところでExerciseを終了した.ATのおよその判定には酸素換気当量(以下VE/V(dot)O2),ガス交換比(以下R)を用い,これらが最低値まで下降し,上昇し始めた時点とし,後方視的にV-slope法と併せてATを決定した.統計にはスペアマンの順位相関検定及び対応のないt検定を用い,有意水準をα=0.05とし,HR,V(dot)O2,V(dot)CO2,体重,除脂肪体重/身長2,AT時のLOAD(W),V(dot)O2/除脂肪体重における各群の比較を行った.<BR><BR>【説明と同意】当学院の学生に実験の目的,方法,危険性について説明を行い,全被験者より実験参加の同意が得られた.<BR><BR>【結果】HRとLOAD(r=0.91),原型Borg scaleの10倍(以下Borg×10)とLOAD(r=0.92),HRとBorg×10(r=0.79)でいずれの群でも高い相関が認められた.AT相当といわれている原型Borg scale 13時のHRは122±17回/分であった.AT時HRは105±11回/分,原型Borg scaleでは9.6±1.5であった.AT時のHRはカルボーネン法による予測最大心拍数(予測最大心拍数=220-年齢)の53±4%(最大心拍数を100%,安静時心拍数を0%とした)であった.男女の比較では体重,除脂肪体重,ATで男性,体脂肪率で女性が有意に高かった.除脂肪体重とAT時のLOAD,除脂肪体重とV(dot)O2に正の相関が認められた.運動習慣の有無による比較では除脂肪体重,ATに有意差は見られなかった.AT時のHR,Borg×10は運動群男性>運動群女性・非運動群男性>非運動群女性の順で低かった.非運動群女性以外ではAT時のBorg×10がHRより低かった.<BR><BR><BR>【考察】千住らの報告からATは原型Borg scale 13と概ね等しく,原型Borg scaleを10倍すると概ねHRと一致するといわれ,AT時HRは130回/分に近いと考えられた.今回の実験では原型Borg scale 13とHRはほぼ矛盾しない結果であったが,AT時のHRは予測より有意に低い値であった.また中村らは最大心拍数の約75%の運動強度がATと一致するとあるが,これも明らかに低かった.理由として被験者が若年健常者であり,一回心拍出量の予備能が高いためと推測される.また運動習慣の有無群には予想に反してAT・除脂肪体重に有意差は見られなかった.これは対象が若年者であり活動量に大きな差がないためと推測される.若年者では運動負荷の相関は体重よりも除脂肪体重にあり,除脂肪体重よりAT時のBorg×10とHRの予測ができると考えた.また,運動群ほどAT時のBorg scaleは低かったが,これは継続的な運動習慣の有無により負荷や息苦しさに対する耐性が影響したと考える.原型Borg scaleで運動強度を決定する場合,運動群のようにAT時のBorg×10がHRより高いと実際のATよりも強い運動強度となり,非運動群女性のように低いと弱い運動強度となり,十分な効果が得られない.以上のことよりATは健常若年者で個人差があり影響因子として性別,体格,運動習慣があり,これらの影響因子を考慮した指標があればAT時のHR,原型Borg scaleを予測し,最適な運動強度の設定が可能であると考える.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】AT設定の予測として原型Borg scaleや最大心拍数75%が知られているが,今回の実験より個人差が見られた.年齢,性別,運動習慣,体格などの個人差を考慮した指標があればAT時のBorg×10とHRを予測することで最適な運動強度の設定が可能ではないかと考えた.

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390282680550046592
  • NII Article ID
    130004583087
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.h4p3262.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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