肩関節屈曲角度の違いに伴う脳卒中後片麻痺者のリーチ動作の変化

DOI
  • 古谷 槙子
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻リハビリテーション科学コース
  • 大畑 光司
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻リハビリテーション科学コース
  • 橋口 優
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻リハビリテーション科学コース
  • 松林 潤
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻リハビリテーション科学コース
  • 三谷 章
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻リハビリテーション科学コース

抄録

【はじめに、目的】 脳卒中麻痺側肢の運動回復は筋緊張の弛緩した状態から痙性を伴い始め,随意運動は定型的な共同運動パターンでの運動から分離運動へと変容する(Brunnstrom,1974).この痙性についてはこれまで多くの報告がなされているが(Lance,1980,Song,2008),共同運動については強度依存性が報告(Dewald,2000)されているものの,それ以外の特性についてよく知られていない.本研究では,上肢共同運動の肩関節角度依存性の有無を明らかにするために,上肢の感覚運動制御機能を評価する代替指標であるといわれる軌跡の評価(Ptten,2003)を用いて,肩関節屈曲角度の変化に伴うリーチ動作の変化を観察した.【方法】 対象:脳卒中後片麻痺者14名,(男7名,女7名 平均年齢:53.9歳 脳出血7名,脳梗塞7名 右麻痺10名,左麻痺4名 Brunnstrom Stage(上肢)I=0,II=0,III=6,IV=2,V=0,VI=6).対象者はBrunnstrom Stageに基づいて共同運動の有無で2群(共同運動群(I-III) 6名,分離運動群(IV〜VI)8名)に分類した.観察・解析:対象者は椅子に座り,肩関節から遠位が同一平面上になるように高さを調節した机の上に上肢を置いた.机の天板面は肩関節屈曲角度が60°,90°,120°の3段階になるようにそれぞれ設定した.対象者は障害の麻痺側上肢を用いて,体幹の正中位に置いた始点から正中線上に置かれたマーカー(終点)に向かい,机上で手を滑らせるようにしてリーチ動作を各角度につき3回行った.マーカーの位置は正中線上に上肢を完全伸展させた位置とした.分析用マーカーは両肩峰,リーチ側の外側肘裂隙,第三中手骨頭の計4カ所に貼付した.リーチ動作は,高さ約3mからビデオ撮影し,ディケイエイチ社製Frame-DIAS-IVを用いて解析した.リーチの軌跡は第三中手骨頭のマーカーの動きを指標として測定した.各軌跡を比較するために始点から終点までの距離を100%とし,それに対するリーチ距離(到達距離)をパーセント表示したものを到達率とした.また,始点から終点までを結んだ直線と軌跡に囲まれた面積をリーチ距離で除したものを単位偏移面積とした.筋活動については,DELSYS社製DELSYSを用いて上腕二頭筋,上腕三頭筋,三角筋(前部),大胸筋の4筋から筋電図を記録し,解析した.そして,リーチ動作開始から1秒間の筋電図を解析対象とし, 各対象者の筋ごとに観察された最大筋活動量を100%とし,それに対する筋活動量をパーセント表示することにより評価した.結果は,反復測定二元配置分散分析を用いて統計処理を行った.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は各対象者に研究の目的と方法を口頭と文章にて説明し,書面にて同意を得た上で行われた.【結果】 リーチ動作:分離運動群では,到達率および単位偏移面積は60°,90°,120°の3段階肩関節屈曲角度においてほぼ一定の値を示し,肩関節屈曲角度に依存する変化は観察されなかった.共同運動群では,肩関節屈曲角度が60°から120°へと大きくなるに伴い,到達率は有意に低くなり,単位偏移面積は有意に大きくなった. 筋活動:分離運動群および共同運動群において,ともに肩関節屈曲角度の増加に伴い三角筋(前部)・上腕二頭筋では有意な増加,上腕三頭筋では減少傾向がそれぞれ観察され,大胸筋では変化は観察されなかった.【考察】 共同運動群においては肩関節屈曲角度の増加に伴いリーチ動作は到達距離が短くなり,さらに外側に偏移することが明らかになった.このことは上肢の共同運動を示す脳卒中後片麻痺者では肩関節屈曲角度に依存性してリーチ運動が阻害されることを示している.このときの屈筋群である上腕二頭筋の活動増加と伸筋群である上腕三頭筋の活動減少傾向は,肩関節屈曲角度の増加に伴いリーチ到達距離が短縮することの一因として考えられる.しかし,リーチ動作の主動作筋である三角筋(前部)の筋活動が増加するにもかかわらずリーチ動作が外側に偏移することについては,今後さらなる検討が必要である.【理学療法学研究としての意義】 今回の研究により,共同運動を示す脳卒中後片麻痺者のリーチ動作は,肩関節の屈曲角度に依存して共同運動の影響を受けることが示唆された.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ba0970-Ba0970, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680550067968
  • NII論文ID
    130004692691
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ba0970.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ