靴底の摩耗パターンと歩行時の踵部に加わる力との関係性

Description

【目的】<BR>靴の使用により、靴底は摩耗する。この靴底の摩耗が歩行に及ぼす影響として、靴底の踵部分が摩耗した靴を履くと、若年者では歩行時、靴の安定性が低下し、高齢者では下肢に加わる衝撃が増加することが報告されている。一方、靴底の摩耗パターンは個人により多様であり、体重や使用期間、歩行様式などさまざまな因子が影響していることが考えられる。しかし、靴底の摩耗パターンと歩行との関係について検討された報告はほとんどない。歩行パターンによって、歩行時に足部に加わる力も変化すると考えられ、足部に加わる力と摩耗パターンが関連するということが明らかになれば、摩耗パターンを観察することにより個人特有の歩容の異常などについて推定できる可能性がある。そこで本研究では、歩行時に摩耗が起こりやすい踵部へ加わる床反力に着目し、この床反力と、靴底の摩耗パターンの指標として摩耗角度との関連性を検討することを目的とした。<BR><BR>【方法】<BR>対象は、靴販売店に来店した地域在住成人の中で、研究参加への同意を得られた19名のうち、除外対象を除く16名(男性6名、女性10名、平均年齢67.3 ± 6.6歳)とした。対象者より日常着用していた靴を収集し、靴底の観察を行った。靴底の摩耗の程度を判別することが難しかった者を除外対象とした。靴底の摩耗については、摩耗が肉眼で確認できる境界線はすべての靴において後内側部から前外側部にかけて存在し、少なくとも外側部分は直線を示していたことから、この摩耗境界線の直線部分と、靴底の爪先先端から踵の中央を結んだ直線とが成す角度を摩耗角度と定義し、この角度の計測を行った。摩耗角度は、小さくなれば踵のより外側部分が広く摩耗し、大きくなれば踵の内側部分まで摩耗していくことを意味する。また、足底圧分布計測システム(幅: 578mm、奥行き: 418mm、厚さ: 11mm、サンプリング周波数150Hz、圧力センサ数4096個)が設置された歩行路(全長7m)を裸足にて歩行し、足底圧の計測を行った。普段通りのスピードで数回歩行して足底圧分布計測システム上に接地できるように練習を行った後、左右交互に3回計測を実施した。足底圧分布計測システムでは、1歩行周期間に足底の小区分ごとに加わる垂直方向のmaximum forceの値が得られる。今回は踵部のmaximum forceを解析・算出し、対象者の体重で除すことにより補正を行った。そして、靴底の摩耗角度が対象者の中央値より大きい群を鈍角群 (男性3名、女性5名、平均年齢68.8 ± 8.1歳) 、小さい群を鋭角群 (男性3名、女性5名、平均年齢66.0 ± 4.8歳) と2群に分類し、計測より得られたmaximum forceについてWilcoxonの順位和検定を用いて群間比較した。統計学的有意水準は5%とした。<BR><BR>【説明と同意】<BR>本研究は疫学研究に該当すると考えられ、事前に書面と口頭にて研究の目的・趣旨を説明し、同意を得た者を対象者とした。また本研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理的配慮を十分に行った。<BR><BR>【結果】<BR>全対象者の右靴底摩耗角度は (中央値: 47.7°,最大値 - 最小値: 75.5°- 26.0°) であった。また、鈍角群の右踵部maximum forceは (中央値: 2.01 N/kg, 最大値 - 最小値: 2.62 N/kg - 1.69 N/kg) 、鋭角群の右踵部maximum forceは (中央値: 1.55 N/kg,最大値 - 最小値: 2.23 N/kg - 1.13 N/kg) で、有意な差を認めた (p = 0.036) 。<BR><BR>【考察】<BR>歩行時において、鈍角群は踵部へのmaximum forceが有意に大きかった。つまり、鈍角群は鋭角群に比べて踵接地時の踵への力が大きいことが示唆された。靴底踵部の摩耗はInitial Contact (IC) 直後の靴底と地面との摩擦により生じ、摩耗角度は靴底と地面との前額面における接地角度によって変化すると考えられる。この接地角度に影響を与える因子の一つとして、距骨下関節の回内外角度が考えられる。しかし、本研究ではICにおける靴底と地面との接地角度や距骨下関節回内外角度は未計測である。歩行中の関節運動に関する先行研究では、ICにおける距骨下関節は回外位で接地し、その後回内するとされており、この運動の主要な役割の一つは接地面から受ける衝撃を吸収することである。鈍角群では鋭角群に比べ、ICにおいてすでに距骨下関節は回内位となり、更なる回内運動による衝撃吸収が機能しないことが、踵部に対する衝撃力を大きくしていると考えられる。従って、今後は歩行時における靴底と地面との接地角度や距骨下関節の回内外角度を計測することにより、摩耗角度に差が生じる機序について検討していく必要がある。<BR><BR>【理学療法研究としての意義】<BR>本研究では、臨床において簡便に観察できる靴底の摩耗角度と踵部に加わる力の関連性が示唆された。靴底の摩耗角度は、簡便な足部機能の評価の一助となりえると考える。<BR>

Journal

Keywords

Details 詳細情報について

  • CRID
    1390282680550133120
  • NII Article ID
    130004583061
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.h4p2362.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

Report a problem

Back to top