プッシュアップの高さの変化と筋活動の関係
書誌事項
- タイトル別名
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- 手指の向きに着目して
説明
【目的】脊髄損傷者に対する医学的リハビリテーションの最終ゴールは日常生活動作能力の自立とQOLの獲得にある。そして、その中で脊髄・頸髄損傷による対麻痺・四肢麻痺者が褥瘡予防、移動・移乗動作を行う際に鍵となる動作がプッシュアップ動作である。また、車椅子を使用しない場面での移動は、全てプッシュアップ動作による臀部の移動により行わなければならず、プッシュアップ能力は対麻痺・四肢麻痺者のADLの獲得に大きく影響している。プッシュアップ動作の方法は損傷部位によって異なっており、今回は特に手指の方向が異なっていることに着目した。<BR><BR>【方法】対象は、健常な男女6名(男性3名、女性3名、平均年齢22歳、平均身長171.2±10.0cm、平均体重64.9±8.6kg)とした。プッシュアップ高の算出には、三次元動作解析装置(VICON社製)を用いた。反射マーカーは第1仙骨(以下、S1)に貼り付けした。筋電図測定には、表面筋電図(Noraxon社製Myosystem)を使用した。筋電計での測定筋は、三角筋前部線維、上腕二頭筋、上腕三頭筋外側頭・内側頭、腹直筋、脊柱起立筋とした。被験者の動作開始姿勢は、床反力計上で、長座位にて、手指の向きを腹側(ventral:以下V)、外側(lateral:以下L)、背側(dorsal:以下D)の3パターンの方法で各3回ずつ行ってもらった。S1上に貼付したマーカーの移動開始時をプッシュアップ開始点、開始点から移動軌跡が最高点に達した時点を最高点、最高点に達した後S1マーカーの下降が停止した時点をプッシュアップ終了点とした。そして、各条件(V、L、D)3回の平均値でプッシュアップ高を求めた。筋活動では、最大筋力の測定は、上記の筋に対して、検者の徒手抵抗による最大等尺性収縮を測定し、最大筋力とプッシュアップ動作時の筋活動量と比較し、プッシュアップ時に最大筋力の何%使用しているかを求め、V、L、Dそれぞれ6名の被験者の筋活動の平均値を求めた。統計処理には、一元配置分散分析、多重比較検定にFisher's PLSDを用い、5%の有意水準とした。<BR><BR>【説明と同意】本研究は広島国際大学保健医療学部倫理小委員会の承認に基づき実施した。広島国際大学理学療法学科において、被験者の同意を得て、説明会を開催し、被験者に直接研究の目的、研究内容、リスク、不利益に対する説明を行い、同意を得た上で研究を実施した。<BR><BR>【結果】プッシュアップ高の比較においては、6名のV、L、Dの最大高の平均は、V:92.5±5.4mm、L:97.8±9.3mm、D:76.8±2.4mmであった。V,L間では有意差がみられなかったが、L,D間とV,D間において有意差は見られた(V,D間p=0.0005、L,D間p=0.00003)。筋活動の比較に関しては、被検筋において、Vでは、上腕三頭筋(外側頭・内側頭)、三角筋(前部線維)が優位に働いた。Lでは、全ての被検筋において特に秀でた筋発揮は見られなかった。Dでは、上腕二頭筋が最も優位に働いた。V、L、D全ての肢位において腹筋群の筋活動量は非常に大きく、脊柱起立筋群の筋発揮量は、全ての肢位において小さく、同レベルの筋活動を行っていた。<BR><BR>【考察】プッシュアップ高と筋活動の比較において、まずVでは、上腕三頭筋の筋活動が優位であることから、Zancolliの分類:C6BIII損傷以下の脊髄損傷者には、行いやすい方法であることが考えられる。Lでは、全体的に筋発揮量がV、Dと比較するとわずかではあるが小さいことから、少ないエネルギーでプッシュアップを行うことができることが考えられる。さらに、プッシュアップ高の平均がV,L間において有意差がみられないが、筋活動はLでは少なく、プッシュアップ高が3パターンの中でも高い値を示したことから、比較的効率の良い方法であると考えられる。Dでは、上腕二頭筋の筋活動量が大きく、V、Lと比較して、上腕三頭筋の筋活動量がわずかではあるが、小さいことから、Zancolliの分類:C6BII以上の高位頸髄損傷者には有利な方法ではないかと考える。しかし、プッシュアップ高を引き出すことが、結果より困難であることから、C6BIII以下の損傷者にはVもしくはLの方法にてプッシュアップを指導するほうが効果的であると考える。全ての肢位に関して言えることは、腹直筋は主動作筋とし機能し、その他の筋群と比較して、非常に優位に機能していたことである。今後の課題としては、今回の研究は、健常者が対象であり、脊髄損傷者では損傷高位によって残存筋が異なるため、今後は脊髄損傷者を対象として検討する必要があると考える。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】手指の向きをV、L、Dの3パターンとして、手指の方向の変化によるプッシュアップ高、筋活動量の関係は明らかになった。本研究の意義は、前述の関係を明らかにすることで、脊髄損傷者の損傷髄節に応じて、効果的なプッシュアップの指導法を見出すことができる。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2009 (0), H4P2357-H4P2357, 2010
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680550138752
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- NII論文ID
- 130004583056
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可